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メイラは家出する


闇に包まれた壮麗な王城、その最奥にある玉座の間。美しい装飾が施された壁には、魔族の偉大な歴史が描かれており、厳かな雰囲気が漂っている。その静寂を破るように、小柄な少女が両手を腰に当て、怒りを込めた眼差しで玉座を見つめていた。


その少女は、魔王の娘・メイラだった。彼女の金色の瞳は、強い意志と怒りに燃え、頬はぷくりとふくらんで、真っ赤に染まっている。幼いながらも、彼女の中に湧き上がる想いは抑えきれず、口を開いた。


「お父様!どうして『最強の勇者になって魔王をスコポコにするんだぞ』のボードゲームを買ってくれないのだ!?」


その一言は、玉座の間に響き渡り、しんと静まり返る。しかし、彼女の金色の瞳は涙でうるみ、声もかすかに震えていた。楽しみにしていたそのゲームが手に入らないことへの悔しさが、彼女の心を痛めていた。


玉座に座る魔王は、その冷ややかな視線を彼女に向け、静かにため息をついた。その瞳には厳しさが宿り、彼女を試すように問いかけた。


「メイラ、魔王の娘が勇者ごっこに夢中になるなど、聞いたことがない。それに、魔界の王家としての誇りがある。人間界の玩具を集めてどうするのだ?」


その冷静な声に、メイラの小さな心は深く傷つけられた。彼女は幼いながらも、この城に閉じ込められていることをずっと感じてきた。友達がほしい、寂しい、遊び相手は魔王城にいる召使か、『深淵の七柱』の数人程度、それに何か楽しいことを見つけるたびに「魔王の娘だから」とか「誇りがあるから」と言われ、何もかも否定されてしまう。その度に、心に芽生えた小さな幸せが奪われ、抑え込まれるような気がしていた。


「お父様は…私のことなんて全然わかってないのだ!」


メイラの言葉は叫びに近く、抑えきれない想いがそのまま溢れ出た。彼女は唇をかみしめ、玉座の前に立つ自分の小さな拳を握りしめた。怒りと悔しさで胸がいっぱいになり、涙がこぼれ落ちそうになるのを懸命に我慢していたが、その心の中ではどうしようもない孤独が広がっていた。


「もう知らないのだ!私、こんな窮屈な城なんて出て行くのだ!」


その宣言とともに、メイラはくるりと振り返り、背中に生えた黒い羽を力強く広げた。その羽根は、まだ成長途中の小さなものだったが、彼女の決意を象徴するかのように力強く羽ばたいた。魔王の驚いた視線が彼女に注がれる中、メイラは意を決して一歩前に踏み出す。


「メイラ、待て!」


低く響く父の声が、彼女の背中に届いたが、メイラはもう振り返ることなく、足を止めずに進んだ。そして、大きな窓辺にたどり着くと、夜空に向かって一気に飛び出した。冷たい夜風が彼女の頬を撫で、広がる闇の中で彼女の金色の瞳が輝きを増していた。


「絶対に帰らないんだから…父上のバカ!」


メイラは小さくつぶやき、必死に涙を堪えて飛び続けた。魔王城の灯りがだんだんと遠ざかり、彼女の小さな体が夜の闇に包まれていく。それでも彼女の心の中には、誇りや孤独を超えて、自分だけの道を見つけたいという強い想いが脈打っていた。


玉座に残る魔王


メイラが飛び去った後、玉座に残された魔王は、しばらくの間その窓辺を見つめていた。彼の厳格な表情に、わずかに複雑な色が宿り、肩をすくめてつぶやいた。


「どうせ、すぐに帰ってくるだろう。あの子は世間知らずだからなぁ、はぁ〜めんどい」


その言葉には、どこか諦めのような、そして少しだけ寂しさが混じっていた。父親としての誇りと愛情が、彼の中で入り混じり、反抗期中のメイラの幼い決意をただ見守ることしかできない。彼にとっては、この家出もまた、成長の一環であると信じているのかもしれなかった。

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