純真無垢な後輩
「失礼します~!藤井先輩、ここにいますか~?」
研究室のドアが開く音がして、俺は顔を上げた。そこにいたのは、後輩の花園美咲。彼女はいつも明るく、無邪気な笑顔を浮かべながら入ってきた。小柄で可愛らしい姿に、自然と場の空気が和む。
「あ、花園。どうしたの?」
「先輩にちょっと聞きたいことがあって……それに、渡辺先輩もいるんですか?」
「あたし?ここにいるけど?」
後ろからの声に反応して振り返ると、渡辺美咲先輩が笑顔を浮かべていた。俺はふと考えた――渡辺美咲と花園美咲、二人とも名前が「美咲」。研究室に二人の「美咲」がいるというのは、ややこしいなと。
「あっ、また間違えちゃった!すみません、渡辺先輩!」
花園美咲が慌ててお辞儀をするが、渡辺先輩は苦笑して首を振る。
「もう、花園ちゃん、私と名前が同じだからって、間違えすぎよ?」
「す、すみません……。でも、響きが似てるから、つい……。」
「まあ、確かに。でも二人とも違うのは分かるでしょ?」
渡辺先輩は軽く肩をすくめ、穏やかな声でフォローする。
「あ、そうそう!藤井先輩、データ整理の方法を教えてほしいんです!」
花園美咲はすぐに切り替え、俺に頼み込んできた。
「データ整理ね。じゃあ、ここをこうして……」
俺が説明を始めると、彼女はすぐにノートを出して真剣にメモを取り始めた。純粋なその姿に、俺は思わず微笑んでしまう。
「花園、熱心だなあ。俺の説明、分かる?」
「はい!藤井先輩の説明、すごく分かりやすいです!」
「おお、それは良かった。」
そんなやり取りをしていると、渡辺先輩がにこやかに口を挟んできた。
「そういえば、藤井くん。どっちの『美咲』の方が呼びやすいのかしら?」
「えっ?」
俺は突然の質問に戸惑った。
「だって、私も美咲だし、花園ちゃんも美咲でしょ?混乱しないの?」
「えーと……そう言われると、確かに混乱するかも……。」
「ふふ、藤井先輩。どっちの『美咲』でも、私は嬉しいです!」
花園美咲が無邪気な笑顔を見せた。
「いや、それは分かるけどさ……やっぱり区別しないと。」
「じゃあ、渡辺先輩を『先輩美咲』で、花園を『後輩美咲』でいいんじゃない?」
俺が苦し紛れに提案すると、渡辺先輩は笑いながら軽く肩を叩いてきた。
「ダサいわね、それ。まあ、好きに呼んだら?」
「うぅ……なんか、どっちにしろややこしいな。」
結局、名前問題で少しばかり悩んだが、純真な花園美咲との会話はいつも明るく、自然と研究室の雰囲気を和ませてくれる。