突然の嵐
「おい、藤井。これ、なんとかしろ。」
バンッと大きな音がして、俺の机に何かが叩きつけられた。振り向くと、そこには高梨沙耶が立っている。彼女は、どこか不機嫌そうに眉を寄せながら、俺の方を睨みつけていた。
「え、ちょ、何ですか、これ……?」
机に放り出されたのは、ぎっしり書き込まれたレポートの束。それも、俺のじゃない。
「私のレポートよ。君、データの整理ミスってたでしょ?おかげで、全部書き直しなのよ。どうしてくれるの?」
彼女は腕を組み、ふてぶてしい態度を崩さない。
「あの……沙耶さん、それ俺のせいですか?全然身に覚えないんですけど!」
「言い訳する気?どうせまた猫の動画でも見てたんでしょ?」
「猫動画!?見てないですよ!それは昨日の話で……って、何で知ってるんですか?」
「ふん、渡辺先輩から聞いたわよ。全然、やる気ないって。」
彼女はニヤリと笑ってみせたが、その目には怒りが隠れている。…やっぱり怒ってるのか。
「いや、やる気ないわけじゃなくて!でも、そもそも俺、沙耶さんのレポートに触れてないですよ?」
「また言い訳ね。じゃあ、このデータのミスは何?説明してみなさいよ。」
高梨はデスクに近づき、俺の方を睨むようにじっと見てきた。こんな距離で見つめられると、さすがに圧倒される。
「た、多分それ、他の人のミスかも……俺、担当してないし……。」
「は?だから、なんで君が担当しないで、他の人がミスしてんのよ!ちゃんと責任感持ちなさいよ!」
「無茶苦茶な理論ですよ!俺、関係ないでしょ!」
「まあ、いいわ。それでも、データ整理手伝いなさい。どうせ暇なんでしょ?」
「暇じゃないですよ!俺、今これから大事な……いや、でも断ると怖そうだし……。」
俺が困惑していると、高梨は机に腰掛けてさらに圧をかけてくる。
「ふふん、やっぱり従うしかないわね。まったく、使えない後輩なんだから。」
「使えないって……俺、ちゃんとやってますから!」
「はいはい、言ってるだけでしょ。それにしても、ほんと冴えない顔してるわね。君、ホントに研究向いてるの?」
「ちょ、ツンデレの“ツン”しか出てないんですけど!ちょっとは“デレ”の方も見せてくださいよ!」
「は?誰がデレるって?」
彼女は怪訝そうな顔をして俺を睨みつけた。
「いや、ツンデレキャラって、そういうのがあるじゃないですか。ツンツンした後にちょっと優しくなるやつ。」
「はぁ?そんなの私は興味ないわ。ていうか、キャラじゃないし!君、ほんとに頭大丈夫?」
「ひどい……」
高梨はふんっと鼻を鳴らし、レポートを机に叩きつけたまま自分の席に戻っていった。
「手伝うなら早くして。あんたがボケてる間に、私は進めてるんだから。」
「あの……一応言っときますけど、俺まだ手伝うって言ってないですからね!」
「はいはい、いいから早く来なさい。」
まるで俺が何も言わなかったかのように強引に話を進める彼女に、結局俺は逆らえなかった。強気で、ツンツンしてるけど……なんか憎めないんだよな。面倒な先輩だけど、俺も意外と振り回されるのが嫌いじゃないのかもしれない。