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どもり口調

フリーターこと新谷勇(ゆう)のバイト先は私の高校から歩いて15分ぐらいのところにある商業施設の入った古いビルだ。

あくまでも年上なので敬意を示して、新谷さんと呼んでいる。

一度家に帰って、母親から預かったお弁当を届けるとか。どんだけ優しいんだよ。私。

そもそも、フリーターとは言え成人してるんだから自分の食事ぐらい自分で何とかしろよ、何でうちの食費からお前の分出してやってるんだよ。

などと、心の中で悪態ばかりついてるけど、面と向かって言えないならそんな言葉飲み込むしかない。

は今警備の仕事をして今日は夜勤らしい。

新谷さんは高校卒業と同時に私の隣の部屋に越してきた。

初めて見た印象は髪の毛ボサボサの丸メガネで、シャツの裾がはみ出ているダラしない人だなだった。

それは今でも変わっていないが。

引っ越しと言うのにショルダーバッグとダンボール一箱だけを手に持ちドアの前に立っていた。

無愛想で一言も言葉を発しない新谷さんは小学生の私から見たら、不審者そのものだった。

初対面の印象と言うのはその後大きく影響する。

事実、私の中で彼は永遠に不審者扱いだ。

それなのに、世話好きのうちの両親は常に一人で暮らしている隣の新谷さんの心配をしている。

ちゃんとご飯は食べているのだろうか?ちゃんと眠っているのだろうか?体調は大丈夫だろうか?

母には年の離れた弟がいたんだけど、上京して一人暮らししたまま音信不通になった過去があるらしく、他人事ではないと感じてしまったみたいで。

今だに彼の世話を焼いている。

ビルの前に着いたので、言われた通り、彼のスマホに電話をする。


「はい、もしもし」


「…お弁当届けにきた」


「あ!」


その一言で電話を切られ待つこと数分、慌てた感じで新谷さんがビルから出てくるのが見えた。

警備の制服を着ているからだろうか?いつもよりはマトモに見える。

だけど…。


「靴ヒモほどけてるよ…」


「あ…」


片方だけならまだしも両足の靴ヒモがほどけてるとかあり得なすぎでしょ。


「はい、これ」


腰を屈めて靴ヒモを結び直す新谷さんにお弁当を突き出した。


「あ…ありがとう」


いつもと同じどもった口調。

モゴモゴとした話し方は初めて会った時から一向に進化しない。


「じゃあ」


「あ…これ」


すぐにその場を離れようとした私に、マスカットのグミの袋を手に握らせた。


「は?」


「マスカット好きだったよね?」


「いつの話?」


確かに小さい頃、コンビニ限定のこのマスカットぐみ大好きでよく食べてたけど。

こいつの頭の中どうなってるの?

9年前で記憶止まってるの?

これ以上話していても仕方ないので。


「まぁ、一応もらっとく、ありがとう」


それだけ言って背を向けた。














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