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彼な訳がない。

どう見てもあの時の彼のままだもの。

もう10年ぐらい経ってるんだよ。

幼い私の目にフィルターがかかっていたから思い出が美化されてるとして…。

それよりもずっとずっとかっこいい。

黒いマントを翻す度に見える裏地の赤い色が艶やかに光っている。

深い紫色の瞳から伺えるキャラへの愛。

凛とした鼻立ちに形のいい唇。

二次元そのものの細い顎ライン。

行列ができている訳では無いが人だかりの中心に彼はいた。

このイベントでは、写真を一緒に撮りたいレイヤーさんがいたら普通に撮影を交渉できるシステムになっていて、あちこちでレイヤーさんが写真撮影に応じているのに、彼はこんなに素敵でこんなに二次元なのに誰も話し掛けないから、彼は同じジャンルのコスをしている方達と永遠に話したりお互いを撮りあったりしていた。

誰も話し掛けないんじゃない。

尊すぎて話し掛けられないんだ。

コスをしているのではなく、元からその姿の状態で二次元から出てきてしまった彼がそこにいた。

周りの方もレベルの高いコスで声が掛けづらい。

だけど。もう少し近くに行きたい。

もう少し近くで彼を見たい。

自然と足は彼に近付いて行ったが。

あんな美しい人の目にこんな不細工な私はどんな風に写るんだろう?

同じ人間としての認識もされないかもしれない。

そんな思いから足が止まってしまった。

私に話しかける勇気なんてない。

ユミチィを探そう、ユミチィとユミチィの推しを探そう。

当初の目的を果たそう。

くるりと踵を返し、歩き出そうとしたその時だった。


「ねぇ、それって」


叩かれた肩に反応して振り返る私の目に写ったのは、先程まで人だかりの中心で注目を集めていたウル様が私のすぐ近くにいて、そして、そして、ウル様の手が私の肩に触れている!

何これ?どんな状況?


「ねぇ、そのバッグについてるストラップって…」


心がハイテンションな私とは反対に淡白な声でウル様は続けた。


「そのストラップ、どこで売ってるの?」


「え!」


私のバッグについていたのは、月間コミックの全プレでゲットしたウル様の等身柄のストラップだ。


「え…こ、これは…全プレで…」


「かわいい!」


私の答えを待たずに目を輝かせてストラップに触れているウル様がいた。

さっきまでクールに見えていた彼からは想像できないほど、あどけない表情で腰を屈めてストラップに触れているウル様が可愛くて可愛くて。


「よ、良かったら、こ、これ差し上げます!」


私の言葉に更に輝かせた瞳を私に向けるウル様に気を失いそうになる。

フラフラする頭に精一杯


「え!本当にー?」


「よ、汚れてますけど…」


「そんなの全然大丈夫!」


手が震えてうまくストラップが外せない。

本当何この状況?

頭が追い付かないよ。

やっと外せたストラップをウル様の手の平に載せると、益々眼を輝かせてギュッと手の平を握った。

その可愛い笑顔はウル様のものでは無かった。


「わー、ウルバヌスのストラップだー、やったー」


ひとしきりはしゃいだ後、ウル様に集まる視線に気付き、恥ずかしそうに咳払いをして私に向き直った。


「ありがとう、大切にする」


あ…、ウル様に戻った。

凛とした表情はウル様に戻っているように見えたが、ほんの少し口元が緩んでいた。














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