俺、生まれ変わったら【国家】に、なって、いる…
……俺は、国。
穏やかな性格で思いやりにあふれる国民が住まう、単一国家。
昔、俺は人間だった。
名前は忘れたが、平和を愛する男だった。
何らかの事故で命を落としたとき、俺は願った。
「生まれ変わったら、争いのない…愛があふれる国そのものになりたい」
そう願ったのには、理由がある。
俺は搾取される側に居続けたせいで…疲れ切っていたのだ。
兄弟、親、友達、知人、他人、上司、嫁、子供、孫…、あらゆる人から自分の成果を奪われ続けて、不満しか感じないまま人生を終えた。
預けていたお年玉が1円も残っていなかった事と、使わずにとっておいた景品の鉛筆を使われた事、一生懸命集めた牛乳キャップをすべて奪われた事に、ちょっとした頼みごとをしただけで手数料を取られた事、いきなり飛び出してきてマイカーをパアにしたババアに慰謝料を請求された事もあったし、コツコツやってきた仕事を上司の名前で発表された事は忘れられるはずもなく、退職金で勝手に家を建て替えられた事や貯金を根こそぎ使い込まれた事など…恨みは未だに消えていない。
願いが叶ったのだと喜んだ瞬間は、確かにあった。
だが、しかし。
―――国王、諸外国の動向が…気になります
俺は、他の国々に目をつけられ始めたのだ。
俺は願った。
「一刻も早く、生まれ変わりたい」
そう願ってしまうのは、当然である。
過ごしやすい気候、豊富な資源と財源、穏やかで優しい気質の国民、過不足なく暮らしていける社会保障…あらゆるものが満たされている国を狙うものが、この星にはたくさんいたのだ。
おかしなモノを混ぜ込んだ食品を特産品だと偽って送り込んだり、やばい病気にかかった希少動物を友好の証と謳って紛れ込ませようとしたり、ミサイルの照準を俺のど真ん中に合わせたり…地獄でしかない。
恐ろしい願いをしてしまった事と、願いが叶ってしまった事が、いつまでも心をえぐり続けている。
……願いが叶ってしまって、もう…どれくらい、たっただろう?
―――外交を一切やめる事にしました、我が国は鎖国いたします
害をもたらす事しかしない諸外国とは、縁を切る方が良いに決まっている。
諸外国の文化を取り入れる楽しみはなくなってしまうが、国内生産が安定しているので、輸入に頼らない自給自足は可能だ。
俺は願った。
「自国民のみで営む、質素で平凡な暮らしが…長く続きますように」
そう願ったのには、理由があった。
心優しい国民は、いつも諸外国からやってきた攻撃的かつ自己中心的な人間に阻害されていたため…一刻も早く諸悪の根源を国外に退出させて、シャットアウトして、のんびりと穏やかな日常を暮らして貰いたかったのだ。
晴れた日は畑を耕し、雨の日はインターネットで繋がってコミュニケーションをとり…時間に追われることなく、日々の暮らしをゆったりと楽しむ国民を見て、安心していたのも、つかの間。
重い税に苦しむ他国民が、産業に陰りが目立ち始めた他国民が、医療設備が整っていない他国民が、時間に追われる他国民が、食糧不足を嘆く食料品廃棄量ナンバーワンの他国民が、最先端技術の開発能力の劣る他国民が、何らかの不満を持つ他国民が…鎖国をやめて協力するよう求め始めた。
……優しさは自国民だけに向ければいい!諸外国の住民を気遣う必要は…ない!!
―――困っているのですか…ではしかたがありませんね
―――助けてほしいのですか…では受け入れます
―――確かに悲惨ですね…では寄付させていただきます
閉鎖された空港に、諸外国のヘリが入り込む。
封鎖された港に、諸外国の船が辿り着く。
穏やかに暮らす人々に、攻撃的な生き物が牙をむく。
譲り合って笑う人々の間に、奪い取る生き物が割り込む。
与えあって喜ぶ人々の前に、力で捻じ伏せる生き物が立ちはだかる。
俺の願いも…むなしく。
武器を持たない、争いごとを嫌う国民が…国外の人間に迫害されて、命を失っていく。
侵略されてしまった俺の上を、重厚なダンプが、トレーラーが、戦車が、野蛮人が、踏み均していく……。
ああ、次に・・・生まれ変わったならば。
おれは・・・
・・・