表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/26

終末(10)

 秀樹は車椅子から手を離し、両手をブンと振って祐次を見た。その目は『流石おじいちゃん』という目だ。


 しかし嘘かホントか、そんな話を春香は聞いたことがない。

 祐次に確認したい所ではあるが、車椅子を押しながら黙って聞いていた。祐次は話を続ける。


「それでね、県の美術館へおじいちゃんのお父さんと、お母さんと、兄弟皆で観に行ったんだよ」

「お母さんは?」

 秀樹が聞く。お出かけする時に、お母さんはいつも一緒だ。

「秀のお母さんはまだ生まれてない」「なんで?」

「おじいちゃんが小学生の時だから」「そっか」

 軽い声で秀樹は頷いた。納得した様だ。それを見て祐次は話の続きを語った。


「いっぱい展示されている中から自分の絵を探したんだけど、中々見つからなくて、どんな絵か説明して皆で手分けして探したんだけど、やっぱり無かったんだよ」


「名前を見たの?」

 不思議な話に、思わず春香が口出しをした。秀樹も不思議そうな顔をしている。

 春香の問いに祐次は頷いていたが、秀樹の顔を見たままだった。


「そしたら、直ぐそこにあったんだけど、おじいちゃんの絵が『逆さま』に飾ってあったんだ」


「なんでー?」「なんでだろうねー」

 笑いながら秀樹が質問した。祐次も笑った。

 祐次にとってそれは、未だ謎のままであり、遂に答えられない質問となった。

 春香は車椅子を押しながら笑いを堪えていた。そう。ここは病院なのだから。


「だから写真を撮るんじゃないかー」「そっかー」

 秀樹は納得したのか再び走り始めた。長い渡り廊下はもう直ぐ終わる。ドアの向こうには祐次が入る病室があるのだ。


「ねぇ、数字の横になんで『同じ字』が、付いてるのぉ?」

 少し離れた所にある『ネームプレート』を指差して、秀樹が祐次に聞いた。まだ幼い秀樹が読めるのは、画題に点々とある平仮名と、その下にある数字だけなのだ。


 それでも沢山ある中から共通項を見つけるとは、中々筋が良い。秀樹の利発さに感心しつつ、祐次は上機嫌で答えた。


「それは『ぼつ』って……」「秀樹、ドアを開けて」「はーい」

 祐次の声は春香の厳つい声に掻き消された。


 秀樹は絵の前から離れ、すぐ先のドアに向った。そこにはさっきと同じ様に『引く』と書かれた重い扉がある。秀樹はそれを押す。


 祐次と春香の心配をよそに扉は無事に開いて、祐次は再び手を窄めた。しかし、ドアを押さえる秀樹の横を通る時、縮めた右手を伸ばして秀樹の頭をそっと頭を撫でる。秀樹は得意そうな顔をした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ