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「出ろよ!」

11月後半。全ての音を掻き消して勢い良く降り続ける雨の中、夏木亮汰(なつきりょうた)は不安げな表情で家路を急いでいた。出来る事ならこんな日は外に出たくない。小さな頃から雷が大の苦手で光や音でパニック状態に陥ってしまう程だった。

先程から雨足が強まり、傘はあまり役に立たなくなってきている。ジーンズの膝から下は既にずぶ濡れで肌に張り付く感触に益々テンションが下がる。


「ついてないな…」


亮汰と光汰は運転免許を持っているが家の駐車スペースの関係で車は2人で1台を共有して使っている。今日は光汰が使うと言っていたので行きは送ってもらっていた。

郊外にある家まではまだ距離がある。

仕方なく近くの何度か入ったことのある喫茶店〈Drops〉で雨宿りすることにした。



その頃夏木家には小包が届けられた。


「ご苦労様。」


母親の時子が受け取ったのは小さくて軽いダンボール箱だった。品名は雑貨で光汰宛に送られて来た。

時子はそのまま光汰の部屋へ行きノックしてドアを開けた。


「光汰、これさっき届いたわよ。」


返事はなく話声が聞こえた。携帯電話で会話中の光汰は視線だけ入り口に向ける。

時子は箱を見せるように軽く持ち上げると机に置いて静かに部屋から出て行った。


『届いたようだな』


電話の相手は光汰が嫌悪する木島文雄(きじまふみお)からだった。木島は光汰の大学の先輩で亮汰に目を付けて何かと絡んでくる人物だ。裏では人を半殺しにしたとかヤクザと繋がりが有るらしいとか危険な噂のある厄介な存在でもある。


どうやらこの木島から送られて来た荷物のようだ。光汰は机に置かれた箱をじっと睨んだ。何が出て来るか分からないのだ。


「…木島センパイから俺がモノ貰うなんて初めてです。」


表面上は後輩の顔で木島と接して居るが、お互い犬猿の仲である。


『まあたいした物じゃねぇけどな…兄ちゃんによろしく』


木島の不気味な含み笑いが聞こえて電話は切れた。

舌打ちして携帯をベッドに放った。


「うっせぇよ」


とりあえず箱を開ける事にした。持って見ると箱は想像以上に軽い。宛先等は紙切れに書かれて消印は無い。誰かが直接届けた物か…。

上下に振るとカシャカシャと音が聞こえた。

ペン立てからカッターナイフを掴んで開封した。中にはディスクが納められたプラスチックの透明なケースが入っていた。


「…ディスク?」


光汰はもっと凄いものが飛び出すんじゃないかと少し期待していた。


「はぁ…なんだよ、ほんとつまんねぇな」


ディスクにはDVD‐Rと印刷されている他に文字は無い。市販のDVDらしい。箱の中は他に何も入っていない。

まぁ見てみるか…。

パソコンを立ち上げトレイにディスクをセットした。操作すると暫くして画面に映像が映し出された。

薄暗い倉庫のような場所だ。見知らぬ男が4人それぞれ椅子に座り煙草を吸ったり携帯電話で話したりしている。20代後半から30代前半くらいで皆黒っぽいスーツを着ている。

その内の1人がカメラ目線で怒鳴った。


『てめぇ何撮ってやがるっ』


『テストっスよ、テスト~』


カメラマンが軽い口調で言うと一旦ここで映像が途切れた。


「訳わかんねー」


パソコンはそのままにして光汰は立ち上がると部屋を出た。5分くらいで戻って来た光汰の手は湯気の出るマグカップを持っていた。

そこで強く手を叩いたような音と続いて悲鳴が聞こえた。マグカップをローテーブルに置いてパソコンを見る。

2、3度聞こえた後男の声が言う。


『まだまだ始まったばかりだぜ?』


画面には色調の違う肌色が2つ。頭を下にして2人分の裸体が地面から50㎝程宙に浮いている。先程のスーツの4、5人の男達が2人を囲む形で立っていた。それぞれ木刀や鞭を手にして…。

全裸で逆さまに吊られた青年2人は後ろ手に縛られて身体に赤い筋がいくつも有る。カメラは彼らの背中を映していて顔は見えない。


「何これ…SMビデオ?」


SMの動画や画像に免疫のある光汰は驚いた様子もなく悲鳴をあげる姿を頬杖をついて見ていた。

が、段々と表情が険しくなる。2人の青年の内色白の方が何となく亮汰と体型が似ているような…。


「はは…まさか…」


さっきの電話で木島が最後に言った言葉が思い出された。


『兄ちゃんによろしく』


光汰の顔が固まった。

ゆっくりと大きく見開かれる瞳。


「…なっ…」


…亮汰…まだ帰って来て…ない…。

次の瞬間光汰はベッドに放り投げた携帯を捜し出していた。亮汰の番号を検索する指が震えて上手くキーが押せない。背中に嫌な汗が伝う。息苦しくなって吐き気さえ込み上げてくる。

耳に当てた携帯は呼び出し音が続いている。

…5回…6回…7回…


「出ろよ!亮汰っ」


苛々して窓を見ると外は土砂降りで遠くの方から雷鳴が響いていた。



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