第2話 石
「本当になんでもできるのだったら、手始めにこの豪雨を止ませてみせてくれる?」
「ふっふっふっ……そんなの簡単なのだ! それじゃあとくと見るのだ!!」
ベリアルは突然手を振り上げ、
「空の神よ、ほほえみたまえ……!! ———」
しかし雨は降り続けたままだ。むしろ心なしか雨風の勢いが強くなった気が……。
「あ、あれ……おかしいのだ……もう一回なのだ!」
その後俺が食事を作り終えるまでずっと空の神とやらに微笑んでくれとかなんとか言っていた。
むしろ空の神に嫌われてるんじゃないかと思うほどになってきた。だってコイツ、魔王(笑)だもんな。嫌われるには十分の要素だな。
「おい、自称魔王、もう飯できたぞ」
そう言いながら、俺はこの幼女の目の前に生姜焼きと山盛りの白米を出した。
「ど、どうしてなのだ……魔法が使えないのだ……でもあの時から違和感はあったような……」
「なにぶつぶつ言ってるんだ、冷めるからさっさと食え」
「のだ……」
結局この自称魔王は魔法を発動することができず、文句を言いながらもしっかりと完食した。ついでに俺の分も作っておいたので、ここで食べることにした。
「この世界には魔法の素はないのだ……?」
「なんだその味の素みたいな名前は……よくわからんけど、多分そんなのないぞ。そもそも、魔法自体はファンタジーだからなぁ」
「ふぁんたじぃ……な、なるほどなのだ……わがはいはどうして気づかなかったのだ……」
「お、まるで事前に確認できたとでも言いたげだな」
「いや、確かにその通りなのだ……ちょっとまおうとしての仕事がたんまりたまってて……」
「……ん? 仕事? おまえ……そんな年齢じゃないだろ……俺でよければ相談に乗るぞ?」
「違うのだ! わがはいはれっきとした300歳のれでぃーなのだ! しかもさっきまおうって言ったのだ!!!」
「そうかぁ、えらいねぇ」
「そんな目でわがはいを見るななのだ! ……まぁいい、話を戻すのだ。———それで、わがはいに仕事をさせようとする側近……というより秘書から逃げるために、いつも世界間転移を使っていたのだ」
「お、おう」
どちらにせよ俺はもう300歳やら世界間転移やらの時点で、すでに理解が追い付いていない。さすが異世界は違うぜ……。俺がもしラノベ小説家でなくて、ファンタジーに対する知識がなかったら、ここで間違いなく頭がパンクする自信がある。
「いつもなら世界間を移動するときにはしっかりと座標とかを設定して、その時に魔素があるかも確認できるのだ……だけどそのときは本当に切羽詰まっていて誤ってランダム転移にしてしまったのだ」
「ずいぶんと便利だな、その世界間転移とやらは。それで、ここの魔素がない世界に来てしまったと?」
「その通りなのだ……正直こんなことは初めてでわがはいにもどうすればいいのかわからないのだ……」
「魔王なのに?」
「魔王だからってなんでもできると思うななのだ!」
聞いている限り、世界間転移とやらは魔素がないと起動しないようで、今の状況八方塞がりだという。
そしてこの魔王、バカだ。言うまでもない。どうしてこうなったと言わざるを得ない。そもそも逃げる手段に世界間転移なんて使うわけがないだろう。どこかに隠れるだけで済ませないのか。
しかもその能力を仕事に使えよ、なんて思うのは少なくとも俺だけではないだろう。しかし、こうなってしまったものは仕方がない。元の世界に返したくても、その手段がないのではどうしようもない。
更に追い打ちをかけるようだが、この見た目だ。見た目が完全に幼女なのだ。これでは完全に近所の住民から幼女監禁で、あることないこと言われる可能性がある。いや実際の年齢は300歳なのだが。そんなこと通用しないことは明らかだ。
そう俺が思い悩んでると、この幼女魔王がなにかを取り出した。
「なんだそれは」
「フッフッフ、聞いて驚け、これは父から譲り受けた『なんかすごい石』だ!」
「うん、それただの石だよね」
「ち、違うのだ! これがあればたいてい何とかなってきたから、間違いなくすごい石だ!!!」
うっすら光っているが、おそらく家の蛍光灯に反射しているだけだろう……。
どうしよう、本当に不安だ。なぜこいつは安心できる要素が微塵もない状況で、こんなにふんぞり返ることができるのだろうか。なんかコイツ見てたら俺が焦ってきたな……少し外の空気を吸いに行くか。
「あら、天津さん。いらっしゃったのね、妹さんは元気かしら?」
多分隣に住んでる……名前は知らないが近所のおばさんだ。どうでもよすぎて忘れてしまった。突然話しかけるから俺が幼女(?)を家に連れ込んだことを直接聞いてくるのかと思ったぞ。
「あぁ、はい、元気ですよ」
「あら、そうなのね。シャルちゃんの顔もいつか見てみたいわねぇ」
「……シャルちゃん???」
俺は聞いたことがない単語に戸惑う。シャルとは? いったい何のことを言っているのか。
……まさか。
「あら、ご冗談を、あなたの妹さんではないですか」
そうニコニコしながらありもしない存在を告げられる。
……いやいやいやまさかまさか。
「ひかりではなく?」
「そうよ?」
……どうやら俺が知らない間に、新しい妹ができていたようだ。




