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二振りのカッツバルゲル

 ダークユニコーンの攻撃を受けた妖精フォーは、崩れゆくなかで、まるで救われたと言わんばかりに微笑みながら祈りを捧げていた。

 ダークユニコーンは、妖精フォーの体から溢れ出るマナを飼い葉のように食べていくと、フォーは呟きを残していく。

「これで、やっと貴方さまの元に戻れます。昔のように……もう一度お背中に……」


 過去の英雄と言える者を無理やり蘇らせ、その者の手で自分を壊させる。吾にはその行動が、無性に腹だたしく思えた。

 彼らの詳しい事情はわからないが、このユニコーンは、生前にはフォーを愛していたように思えるのだ。どんな気持ちで土地を守り彼女たちに力を授けたのか……。

 同じ存在として、妖精フォーとダークユニコーンのやり方にノーを突き付けたい。

 

「参りますよ、カッツバルゲル!」

 精霊ナイアデスの一言で、二振りのカッツバルゲルが角を光らせた。

 大地を駆けながら互いに魔法を放ち合ったため、周囲に無数の炎や水、更には闇が飛び交っては壁や木の根に衝突していく。


 間もなく、吾の角と初代カッツバルゲルの角がぶつかり合った。

 稲妻のようなエネルギーが両者の間で飛び散り、パワーで吾は押されたが、精霊が強力な水結界を展開してくれたため何とか五分に渡り会っていた。

 しかし、初代の蹴りを受けると、吾の砂の防具は一瞬でヒビだらけになった。


 吾は睨み返すと、角を更に光らせてとっておきの技を見舞うことにした。

 まずは水を集めるイメージ。次に炎で熱するイメージ。3番目にその水を全て蒸発するイメージ。4番目に敵に向けるイメージ。

――反属性合成術……蒸気の洗礼!


 高圧で熱した蒸気が、次々と初代カッツバルゲルに襲い掛かった。

 この技の恐ろしいところは、沸騰して濃縮された聖水を直に受けるところにある。今は6月なので水温がもともと高く、冬場よりも高い濃度の聖水を受けることになる。


 体中から邪気が洗い流された初代カッツバルゲルは、吾の体重を支えきれなくなって弾き飛ばされたが、起き上がると不死者にも関わらず光属性のオーラを纏っていた。

「亡者が光属性を使うとはな……」

「生前に十分な徳を積んだ者は、肉体そのものに聖なる力が宿り続けます」

 精霊は一呼吸おいてから言った。

「初代カッツバルゲル様は、命果てた後もハエすら寄っては来ませんでした」

 なるほど。初代カッツバルゲルの肉体は聖遺物に近い代物というワケか。

「森の聖遺物か……」

「ええ」


 聖遺物という言葉を聞いて、初代カッツバルゲルは吾を睨んできた。

『セイイブツ? お前たちは私を、バカにしているのか?』

「……なぜ、今の会話でバカにしたことになるのだ?」

 聞き返すと、初代カッツバルゲルは骸骨の目の部分を光らせた。

『私は、故郷では一番の劣等生だった。あまりに成績が悪いから座禅と学問の神様の元で補習を受けることとなったが、そこでは後輩たちに抜かれた。はじめて就職した砂漠の国でも上司からお説教を受けているのは常に私だった。神のお膝元の国に行ったときも徳が低すぎて入れてはもらえなかった』


 とてもそうは見えないと言いたかったが、精霊ナイアデスは否定することもなく黙っていた。

 そして初代カッツバルゲルは、我々をまっすぐに見た。

『ここに来ても一緒だ。私は自らの使命を全うできなかった。森を豊かにすることができなかった。自分自身の命さえ守れない……そんな落ちこぼれで無能な一角獣の体がセイイブツ? 笑わせるな!』

「そんなことはあり得ません……貴方様は!」

『泉の小さき者よ。あの荒れ地が豊かな土地に戻ったのは主の活躍が大きい。私は何の役にも立っていない』


 吾は、心の中に浮かんだ疑問をぶつけてみることにした。

「なるほど。ところで貴殿は落ちこぼれの意味はわかっているのか?」

 そう聞き返すと、初代カッツバルゲルは骸骨でありながらも、表情を変えたように見えた。

「組織や学び舎の勉強についていけなくなる者のことだ」

「それは劣等生だ。落ちこぼれとは、容器からこぼれ落ちてしまうように組織から抜けてしまう者を指す」

「同じことではないか!」

「違う。落ちこぼれとは特定……或いは全ての分野に秀でている者が、組織にいられなくなることも意味している」

 そう答えを返したら、初代カッツバルゲルは少し身を引いた。どうやら過去を振り返って心当たりが幾つもあるようだ。

「お前の質問が師を混乱させることはなかったか? 上司を狼狽えさせることがあったはずだ」

「…………」


 精霊ナイアデスも、同意するように言った。

「貴方の昔話を聞いていた時、私も同じことを思っていました。カッツバルゲル……貴方は優秀過ぎて組織にいられなくなったのです!」

『黙れ……お前たちに、私の何がわかる!』

「わかるさ! 僕は2代目として、ずっと貴方が蘇らせようとした森を見てきた!」

 精霊がしっかりと乗り直すと、吾と初代カッツバルゲルは再び駆け、角を激しくぶつけ合った。

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