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洞窟を抜けた先に……

 吾は今、決して振り返ってはいけない洞窟を歩いていた。

 周囲には岩ばかりで何もなく、吾の足音だけが反響し、たまに岩から落ちる雫の音だけが周りに響くというとても静かな場所のはずなのだが、なぜか脳裏には幼少期の記憶が少しずつ蘇ってくる。


 どこからともなく坊やという声が聞こえた気がした。

 これは紛れもなく死んでしまった母親の声だ。彼女は吾が1歳の時にその生涯を閉じてしまった。命果てる間際に彼女が祈ったのは、吾が生き延びることだ。だから……こんなところで振り向くように呼び掛けたりはしない。


 次に聞こえてきたのは、初めて聞く牡馬の声だ。

 恐らくこれは父親の声ではないかと思う。死ぬ間際まで側に居てくれた母とは違い、父が吾の側に来ることはなかった。

 基本的に父の頭の中には牝をはらませることしかなく、用が済んだら後は知らんぷり。妻子が肉食獣に追いかけまわされていようと、自分だけは安全な場所に逃げていく父親だった。


 吾はそんな父親を軽蔑はしていたが、そんなものだろうとも思っていた。

 牡とは基本的にたくさんの種をばらまこうとする存在だ。たったひと組の妻子のために体を張るより、自分の身の安全だけを確保して、新しい牝馬でも口説いた方が効率がいいし、そういう個体の方が結局生き残りやすい。

 まあ、同じような生き方はしたくはないが……


「カッツバルゲル。こちらを見てください」

 今のは精霊の声……と見せかけた幻聴だ。精霊はこの洞窟を出るまでは喋らないと言っていた。吾は黙ったまま洞窟を抜けると、問題の人物に追いついた。



 その姿は妖精のものとなっていたが、纏っていたオーラや匂いから例の白馬であることはすぐに気付くことができた。

「ここまで追ってくるなんてね……姉さん」

「フォー……」

 オーラが似ていると思っていたが、どうやら彼女たちは姉妹だったようだ。


「あなた、まさかカッツバルゲル様を!?」

 そう精霊が叫ぶと、妖精フォーは目を細めて真っ白なユニコーンホーンを抱きしめた。

「カッツバルゲル様は、死ぬべき方ではなかったのです。もう一度生き返って……人間という外敵からこの森を守る守護霊獣になって頂く。それが私の使命!」

「やめなさい! 一度失われた魂は決して戻ってはならないと、彼自身がそう言っていました!」


 精霊は必死になって止めていたが、妖精フォーは聞く耳を持たずユニコーンホーンに邪気に満ちたオーラをかけ始めた。

「目覚めてください……森の守護神にして、邪悪な人間たちを残らず屠る森の剣」

 精霊ナイアデスは、悲痛な声を響かせた。

「フォー!!」

「危険だ、精霊様!」

 吾は大地の防壁を展開すると、邪気に満ちたユニコーンの放ったオーラを何とか防ぐことができた。考えても見れば、ここが異空間で良かったと思える。

 もし、森の真ん中でこんなに凶暴なオーラが解放されたら、最低でも1ブロックの精霊や霊獣が壊滅させられてしまうだろう。


 防壁がバラバラに崩れると、蘇ったダークユニコーンの姿が見えた。

 体全てが白骨化しているが、目の部分だけは爛々と光を放ち、身体からはこの世のものではないといいきれるほどの強力な邪気があふれ出している。

「Sランク中位……」

 口にして、Sというランクの恐ろしさを改めて思い知らされた感じがする。


 人間や生き物が、単独で会得できる強さの限界がAランク上位である。この域に到達する才覚を持つ者のさえ、100万に1人いればいい方という感じだ。

 その素養のある上澄みの一握りの者が、生涯に渡って努力を続けていき、運も味方して初めて晩年に到達できる。

 吾のように、精霊のような存在を味方につけなければAランク上位さえ、到達が困難なランクなのである。


 Sの中位とは、それよりも2ランク上だ。

 まだこの目では見たことはないが、熾天使の中でもバトルタイプといわれる天使でないと、この禍々しいユニコーンと互角に闘うことはできないように思える。


 精霊フォーはダークユニコーンに跨ると、吾を睨んだ。

「平伏しなさい! そうすれば、命だけは……」

 その言葉を遮るように、ダークユニコーンは精霊フォーを背から振り落とし、間髪いれずに喉笛を噛み千切った。

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