僕の名前
4月1日。エリアマスター帳を開くと600ポイントが加算されていた。
先月分の繰り越しが50ポイントあるので、650ポイントである。
ちょうどいいタイミングでフェアリーたちもやってきた。
「ユニコーン様。今月のマナ収入です」
キラキラとした光の粒を受け取ると、僕のエリアマスター帳には344ポイントが加算されていた。
「前回よりも増えたね」
「ミツバチたちが早速、森の草花の受粉を行ってくれたようです」
フェアリーはそこまで言うと物欲しそうな顔をした。
「言いたいことがあるのならマナがあるうちに言って」
「わかりました。これから害虫が増えてくるのでペーパーワスプを買って欲しいのです」
ペーパーワスプ……アシナガバチのことか。
エリアマスター帳を開くと、アシナガバチは確かに扱われており200ポイントで売られていた。
「これしかなかったけど構わないかい?」
「もちろんです!」
アシナガバチのコロニーと巣箱を買うと、小指大のフェアリーたちはすぐに森へと運んでいった。
「これで残りは794ポイントか……何に使おうかな?」
悩んでいるとフェアリーは言った。
「マナの一部を貢物として、精霊様に献上されてはいかがでしょう?」
なるほど。確かにエリアマスターに任命してくれたのは彼女だし、それくらいのお礼をしても罰は当たらないか……
「どれくらいのマナポイントを包めばいいのかな?」
「基本的に領地の収入の1割が相場なので……35ポイントで十分です」
「そんな少なくていいの?」
「戦などでお世話になった場合で2割というのが暗黙の了解です。変に多く包むと、酷い土地を寄越しやがって……と嫌味を言っていることになります」
「な、なるほど……」
エリアマスター帳のページを捲ると、主君へ献上する項目があったので使ってみた。
すると主君である泉の精霊は、すぐに姿を見せてくれた。
「私としたことが……肝心なことを忘れていました!」
「ど、どうされましたか?」
僕が質問すると、泉の精霊はじっとこちらを眺めてきた。
「名前ですよ。貴方は自分のことを名も無い馬と言っていましたので、きちんと私が考えてあげねばなりません」
精霊は少し考えると言った。
「では、古のユニコーンの名を頂戴して、カッツバルゲルと命名しましょう」
カッツバルゲルとはショートソードの一種で、やや広めの刀身を持っている。登場した初期の頃は突くタイプの剣だったが、最近では刃渡りの長いモノも出てきているため斬ることもできる。
精霊は僕を眺めていた。
「如何でしょう?」
「素敵な名前だと思います。今日からそう名乗らせていただきます」
そう答えると、僕のエリアマスター帳にカッツバルゲルと言う名が記された。
「ところで精霊様。何か優先して行うことはありますか?」
そう質問をすると、精霊は少し考えてから答えた。
「うーん……とりあえずカッツバルゲルは、この泉を守ることを最優先事項とします。もし、領土を増やしたいのなら、重臣を増やして開拓するようにしてください」
僕はすぐに頷いた。
「わかりました」
すぐにエリアマスター帳を広げると、記された759ポイントというマナポイントを見た。さて、残りをどう使って戦力を強化するのがいいか……
微笑を浮かべていたら、精霊は言った。
「これだけマナポイントがあるのなら、猟犬を使役するといいかもしれませんね。ちょうど具合の良い者を保護しました」
彼女が指をはじくと、その懐にオスの大型犬が現れた。とても勇敢で賢そうな雰囲気がある。