カッツバルゲルから見た状況
使い魔鳥が敵発見の知らせを持ってきてから十数分後。
遂にホエズラー一行のにおいを感じた。
オーラの大きさから、Bランク中位1人。Aランク下位2人。そしてAランク中位。種族はわからないが、大体エストックと同程度力を持つ者がいる。
これだけなら、たまに現れる強敵冒険者一行という感じだが、Bランク中位の者、恐らくホエズラーの周りには黒く歪んだ亀裂と言うのか、この世のものではない光が不安定な落雷のように出ては消えていた。
これはどう見ても、精霊の加護によって見えているものだ。以前と同じホエズラーとは思わない方が賢明だろう。
吾は試しに、鎧と角抜きの昔の姿のまま出迎えようと思った。
ホエズラー一行が近づいていた。
近くで見てもホエズラーは思った通りBランク中位の実力だった。この短期間に下位から中位に上げただけでも大したものだ。鎧だけの戦士はAランク下位。フードの魔導士もAランク下位。そして馬のにおいのしないユニコーンはAランク中位。強さだけで見るのなら、真のチームリーダーは彼女だろう。
「久しぶりだねホエズラー」
わざと昔の口調で声をかけると、ホエズラーは驚きもせずに叫んだ。
「役立たず馬……いや、テメーがご活躍中のカッツバルゲル様とは、ずいぶん出世したもんじゃねーか!」
吾はその矛盾に満ちた言葉に目を細めた。
角も砂鎧も隠しているのに、どうしてホエズラーは僕がカッツバルゲルとわかっているのだろう? この体の周りに飛び交っている不自然な落雷のような現象に関係があるのだろうか??
試しに、とぼけてみることにした。
「カッツバルゲル様なら、だいぶ前に亡くなっているよ。ウマ違いじゃない?」
「俺はテメーのウソには騙されねえぞ! さっさと角とご自慢の鎧を出しやがれ!!」
どういうワケか吾の正体を知っているようだ。
言われた通りに3属性の加護を得た角と、身体を守る砂の鎧を実体化すると、鎧の戦士やフードの魔導士、更に白馬も警戒する様子で身を引いていたが、ホエズラーだけは微動だにしなかった。どうやら見慣れているようだ。
「コイツの正面に立つなよ……強烈な水や炎が来るぞ!」
彼らしくもない的確な指示だ。
戦闘が始まると、ホエズラーチームは吾に白馬をぶつけ、自分と鎧の戦士の2人がかりでガガンを集中的に狙ってきた。
そして妖精フローレンスにはフードの魔導士をぶつけ、こちらも旗色が悪い。ホエズラーがここまで鮮やかに戦いの指示が出せるとは、一体なにがあったのだろう。
ただ単に頭が良くなったのだとしたら、吾の正体を知っていると豪語するのは不自然だ。何の対策も立てていないと吾らに思わせてから、一気にこういう陣形で戦った方が勝算が高い。
吾の脳裏に、ある可能性が浮かんだ。
「…………」
白馬と戦いながらダンジョンマスター帳を出すと、ホエズラーは表情を変えた。
「気を付けろ白馬……そいつがマナで何かけしかけてくるぞ!」
「わかりました」
その一言で確信した。ページも開いていないのに、なぜホエズラーは何かけしかけるとわかったのだろう。ダンジョンマスター帳はマナが無ければ目障りな紙束でしかないし、マナの残量は僕と精霊くらいしか知らないはずである。
吾は即座に、森の奥に潜んでいるトンビに目配せした。これは援軍要請の合図である。なるべく戦いを向こうのシナリオ通りに進んでいるように見せかけ、一気に戦況をひっくり返す。
ガガンやフローレンスの体力に気を配りながら、吾は白馬の攻撃をさばいた。
「やってやるぜ! テメーは俺様の足元にひれ伏すんだ!」
「相変わらず、口の減らない男だ」
「うるせー!」




