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仔馬誕生

 4月の中旬になると精霊が姿を見せた。

「カッツバルゲル。事後報告になってしまうけど……2人ほど腕の立つ野犬を見つけたので、マイフ隊の配属させました」

 それは願ってもない話だ。

「戦力不足だったので助かります。どのような使い手なのでしょう?」

「大型の雑種のエールスと、ドーベルマンのナルードです」


 ダンジョンマスター帳をチェックしてみると、マイフのマナポイントは690になっている。元々は1140だったので、装備等を含めて450ほどのマナを消費したようだ。

「ふむ……ちなみに、この泉の周辺地域に優れた使い手はいましたか?」

 精霊は困り顔になった。

「こちらには残念ながら……」

「なるほど」

 どうやら、生まれてくる子供に期待するしかなさそうだ。



 エストックのお腹も、5月になると本格的に大きくなってきた。

「あなた。今月は2037ポイントが余っています」

「わかった」

 そっとエストック領内の内訳を調べてみると、彼女自身の霊力は112ポイントまで減っていた。恐らく、身体のマナの大半が子供を育てることに使われているのだろう。


 吾もまた、300ポイントをフローレンスに渡すと、残ったマナを眺めた。

 自身のマナが700に土地からは863。前月分の繰り越しが2179。合わせて3442ポイントものマナが余っている。

 さて、何に使おうかと考えていると精霊が姿を見せた。


「精霊様。ポイントが3000以上余っているのですが、何か良い使い道はありませんか?」

「そうですね……では、ガガンを強化しては如何でしょう?」

 吾もまたガガンを見ると、熱心に筋力トレーニングをしていた。確かにこれほど努力をしているのなら、強化くらいして努力を労ってもいいだろう。


 ガガンを呼んでダンジョンマスター帳を向けると、1000ポイントで強化ができることがわかった。

 マナを使用すると、リザードマンの彼の鱗は生え変わり、爪や角も鋭くて硬そうな代物になり、尻尾と背中には無数の棘が生えてきた。


「ありがとうございますカッツバルゲル様。このガガン……今まで以上に働いてごらんに入れましょう!」

「頼りにしているぞ」

 ガガンはA中位クラスとそん色ない強さとなった。アクシデントに見舞われなければ、1人でAランク冒険者チームを丸ごと相手にできるだろう。

 さて、マイフはと言えば……どうやら今月は300ほどのマナを内政に回したようだ。残った320ポイントに手を付けてないのは、新しい使い手が見つかった時に雇うためだろう。



 そして、5月も終盤に差し掛かった日の夕暮れ時、エストックは苦しそうに身を横たえた。そろそろ生まれるようだ。

「み、見張りなら……わたくしめに!」

 ガガンはそういうと泉前の道に立った。

 その様子を使い魔鳥で見ていたのか、ピーターとデイヴィットも姿を見せ、吾もフローレンスやゾーイと共に、エストックの出産に立ち会う。


 ゾーイはどうやら馬の出産に立ち会った経験があるらしく、生まれようとする青毛の男の仔が前脚を出すと、慎重に引っ張りながら手伝いをしてくれた。

 間もなく男の仔の顔が見え、胴体が姿を現し、右前脚だけ白い脚が、最後に後ろ脚と白い尻尾が姿を見せた。


 青毛の男の仔は、すぐに吾を見た。

「おとうさん……?」

「そうだ」

 精霊はすぐに、青毛の男の仔の体を泉の水で清めると、呼吸が落ち着いたところでエストックにも水をすくって飲ませていた。

「紹介する。今、泉の水をお前を清めて下さった方が精霊様だ。そして、お前を舐めて毛並みを整えている一角獣がおかあさんだ」

 吾が子は、まず精霊を、次に母エストック見た。

 そうだ。お前にとって仕えるべき主君と、守るべき母君だぞ。彼女たちの姿をしっかりと今から、その目に……


 なぜか仔は、再び吾を見た。

「おとうさんがやっぱり、いちばんつよそー!」

 その言葉を聞いて、精霊とエストックは噴き出すように笑っていた。だから、一番強いのは吾ではなく精霊様だぞ!

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