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スペクターとの対決

 アレックスとデイジーもお互いを見合っていた。

「い、今のは……デクスター隊員の声?」

「私にもそう聞こえた」


 すぐに精霊を見ると、彼女は険しい顔をしていた。

「禍々しい邪気を纏った者が森に紛れています。カッツバルゲル」

「わかっています。ガガン……守りを頼むぞ」

「お任せあれ!」


 吾は妖精フローレンスを背に乗せ、叫び声の方角を目指すと、デイジーとアレックスも付いて来た。

 距離にして1キロメートルもないが、濃霧が発生しているせいで距離が長く感じる。しかも敗残兵とはいえザッカーナ隊の面々がいる可能性があるため、善人であるデイジーたちが両脇を守ってくれているのは心強い。


 少し進むと、再び悲鳴が響き渡った。

 更に近づくと、今度は女の悲鳴が聞こえてくる。いずれも吾を討伐にし来た連中の声だ。

「一体、何が起こっているんだ!?」

 アレックスもデイジーも警戒したまま側を歩いている。

「2人とも……吾の側を離れるなよ」

「は、はい……」


 もうしばらく森を歩くと、事切れた弓使いザッカリーの亡骸を見つけた。

 その体からは、死後数日は経ったかのように精気が消え失せており、吾の脳裏には一瞬にしてあるキーワードが浮かんだ。

「エナジードレインか……」

 アレックスも恐々とした表情で言った。

「手負いとはいえ、彼はAランク冒険者チームのリーダーだ……それをこうもあっさりと……」

「用心した方がよさそうだな」


 その直後に草むらが揺れると、先ほどまで交戦していたザッカーナが現れた。

 しかし、どこか様子がおかしい。顔は血を抜かれたかのように真っ青で、目は虚ろになり、ぎこちなくよろよろと動いている。

「これは……」

 デイジーが近づこうとしたが、吾は角で静止した。


 その直後にザッカーナは崩れるように倒れ、身体からは既に精気はなくなっていた。

「あああぁあ……美味しかったぁ」

 その悪意は、木の上から吾を眺めていた。

「貴様か。吾が森で乱暴狼藉を働いている者は」

「そぉれは御挨拶だねえ……私はあ、ただ食事をしているだけよぉ」


 悪意と対峙すると、その周囲から無数の霊魂が見えた。1000……いや1200ほどだろうか。それらの魂1つ1つが呪縛によって縫い合わされており、本体の悪意を守る鎧兜のようになっている。

 A下位……いや、全ての霊魂を合わせるとA中位クラスの力がありそうだ。

「美味しそう……」

「…………」

 悪意からは、吐き気を感じるほどの邪悪を感じた。

 この世の何をかき集めたら、こんなにどす黒く不快なものになるのだろう。


「ああ、だめ……これは命令に無いから、我慢」

「…………」

「だけどだむぇ……我慢できないよぉお!」


 悪意は声と共に飛び掛かってきたので、吾は水魔法を発射した。

 すると、水は悪意の体に触れた部分が黒く濁って道端へと落ち、黒く澱んだ悪臭を放ちながら草を枯らした。

「うぎゃああああああ!」


 しかし、悪いことばかりでもない。どうやら、悪霊にもダメージがあったようだ。

「ならば……!」

 吾は広範囲に拡散させて水魔法を放つと、悪意に触れた部分が次々と濁っていったが、具現化された悪意の体も弱っていくのが目に見えてわかった。

「これならどうだ!?」

 吾は普段の10倍ほどの水を頭上に出すと、悪意の体中にまんべんなくかけるように放った。

「聖水の……バーゲンセールなんて……あんまり……よ」


 悪意が消滅すると、アレックスは信じられなそうに当たりを見回していた。

「この程度の悪霊1匹に、SランクチームやAランクチームの冒険者たちが、こんなにやられたというのか!?」

「いいや。違うと思うぞアレックス」

「え……?」

 デイジーは複雑な表情のまま、吾を眺めていた。

「ユニコーンが……カッツバルゲル様が強すぎるんだ。今の悪霊だって……聖水のバーゲンセールと言ってただろう」

 アレックスはハッとした様子でこちらを見た。


「聖水って確か……瓶1つ分作るだけでも、聖職者たちが苦労して祈りを……」

「司祭でも1時間はエンチャントしなければ、悪霊を払う精度にはならないと聞く。それを1秒もかけずに作り出すということは、やはり……神獣なのだろう」

 吾はさすがに買いかぶりだと思いながら答えた。

「水に聖なる気が混じっているのは主ナイアデスの加護によるものだ。吾自身の力など微々たるものさ」


 辺りを見回してから言った。

「犠牲者の中には家族のいる者もいるだろう。遺品を届けてやってくれ」

 アレックスとデイジーは「ははっ!」と返事をした。

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