ゴブリンが領内に侵入
人間から見たら雑草のような植物も、僕のような馬から見ればご馳走の山のようなものだ。
特に泉の側に生えている草は普通の草よりも栄養価が高いらしく、普段の半分程度の量でも十分にお腹を満たしてくれた。
ちょうど食事を終えたとき、東側に放っていた使い魔鳥がやってきた。
「ピィ……ピィ!」
彼の言いたいことは、角を通して伝わってきた。
「えーとなになに……東側からゴブリンの一団が侵入。ホブゴブリン1にゴブリン20」
「ピィ!」
「わかった。領内が荒らされる前に退治しに行こう」
さて、腹も膨れたことだし、たっぷりと運動を……と思っていたら、重臣であるフェアリーが飛んできた。
「お待ちくださいユニコーン様」
「どうしたんだい?」
「水辺の守護者である貴方様が出陣なさるまでもありません。わたくしめにお任せください」
なるほど。確かにエリアボスの僕が下手に動き回ったら、陽動だった時に困るな。
「わかった。じゃあ……君に任せていいかい?」
「早速、討伐に向かいます」
フェアリーは、小さな指先程度の仲間たちを率いて森の東側へと移動をはじめた。
敵の中にいるホブゴブリンは、身長180センチ前後の筋骨隆々の大男のようなモンスターである。それに小さいとはいえ、120センチ前後のゴブリンが20もいるのだから少々心配になった。
「……大丈夫かな?」
ちょうど精霊が姿を見せたので、質問してみた。
「精霊様。今……フェアリーにホブゴブリン率いる小隊の討伐に向かわせたのですが……」
「彼女なら問題なく撃退できると思います」
精霊は、近くにある水溜まりに手をかざすと、そこにはホブゴブリン率いるゴブリン小隊の姿が映った。
この連中は森の木々を見ると不敵に笑っていたが、傷つけようとしたタイミングでフェアリーの魔法攻撃を受けて薙ぎ倒されていた。
どうやらゴブリンには魔法耐性があまりないらしく、喋るフェアリーの攻撃はもちろん、一般フェアリーの魔法攻撃でも結構なダメージを受けているようだ。
「なるほど。これなら小さなフェアリーだけでも十分だったかも」
「重臣クラスのフェアリーには、他のフェアリーの魔法力をブーストする力がありますからね。小さい妖精だけではこうはいきませんし、小さなフェアリーを失えば内政を行う能力が低下します」
それは困ると思った。フェアリーはいわばダンジョンの農夫のような存在なので、減ってしまうとマナを回収できなくなるということか。
フェアリーは30分ほどで戻ってきた。
「ただいま戻りました」
「ご苦労さま」
フェアリーたちは、僕が水辺の周りを走っていることに驚いていた。
「トレーニングをなさっていらっしゃったのですか?」
「うん、僕はこう見えて人間に直したら32~36歳くらいだからね。食っちゃ寝を繰り返していたら、あっという間に角の生えた肉だよ」
フェアリーは表情を戻すと言った。
「予定通りゴブリンを討伐しました。本日の戦果でございます」
彼女は赤々とした光の粒を僕に差し出してきた。すると17ポイントしかなかったマナポイントが、ちょうど50ポイントまで増えたのである。
「なるほど。敵を倒してもポイントが手に入るんだね」
「その通りです。それから……今回の戦いで被害はありませんでしたが、戦いや略奪で破壊された樹木や草花の命も、私なら一部ですが回収できます」
「なるほど。でも、壊されるよりも前に敵を倒したいな」
「仰せの通りにございます」
戦力を強化したいと思えば思うほど、来月の収入が待ち遠しい。
ん、でも待てよ。ゴブリンの小隊が来たということは、東側のどこかにゴブリンの巣でもあるのだろうか?
「ねえ」
「はい?」
「東側からゴブリンってよく来るの?」
フェアリーは頷いた。
「東の洞窟にはゴブリンの巣がありまして、そこの王は定期的にマナを欲するため、遠征部隊が度々森を荒しに来ます」
王……つまりゴブリンキングか。噂ではAランクやSランクの冒険者チームでも苦戦すると言われる相手だ。今の僕やフェアリーにどうこうできる相手ではないだろう。
「その様子だと、素直に時間をかけながら戦力を強化した方がよさそうだね」
「賛成です」
幸いにも、この月にこれ以上のモンスターの襲撃や冒険者が侵入してくることはなく、僕たちは4月を迎えることができた。