やっと訪れた春
2月も後半になると、1日を通して0度を上回る日が増えていき、3月になると雪も少しずつだが溶け出していくようになった。
今月は、幸いにも吾も妻の霊力も半減することなく、更に妖精たちも半分だがマナを納めてくれた。
「吾のポイントが2496で、エストックが2185か」
フローレンスは森を見回すと戻ってきた。
何か困っていることはあるか聞いてみると、彼女は森を見回りたいと返事を保留していたのである。
「特に木々も問題はありませんでしたし、昔ゴブリンに荒された場所へ進出すべきかもしれません」
「必要なマナは?」
「そうですね……500ほど頂けないでしょうか?」
私は頷くと、フローレンスに500のマナポイントを渡した。
「では、早速……」
フローレンスが妖精たちと共に森の東側へと向かうと、今度はエストックとヘラジカのルアイン4がやってきた。
「あなた。実はヘラジカのルアイン4が鹿部隊を作りたいと言っています。許可してもよろしいでしょうか?」
「判断するのはあくまで君だが、マナに余裕があるのなら吾は構わないと思う」
「わかりました」
エストックは100のマナポイントを早速ルアイン4に与えていた。
「ありがとうございます! 早速ぼくも有望そうなシカを探してきます」
頷くと、ルアイン4は森の中へと入っていった。
エストックは300ほどマナを妖精たちに与えていたらしく、残りマナ量が1685となっていた。
「エストック部隊も、もう1人ぐらい重臣が欲しいところだな」
「確かに……マナもだいぶ増えましたからね」
ちょうど精霊も姿を見せたので、この話をしてみようと思った。
「精霊様。エストックの部隊ももう少し戦力を強化したいと思いまして……有望そうな者はいますか?」
「あいにく、泉の周辺地域に一角の者はいません。あと……」
彼女は森の東側を見た。
「ゴブリンが住み着く前に、東側に拠点を作ろうと思います」
一種の賭けにも感じる策だが、狙い通りに東側に拠点を築くことができれば見返りは大きそうだ。
「何か霊力の強い場所を見つけたのですか?」
「はい。ゴブリンが以前住んでいた場所の近くに、大きな一枚岩があるのです。そこに部下を領主として派遣すればマナ収入も得られるでしょう」
フローレンス以外で、一番霊力の高い部下と言えば……狼隊長マイフである。
彼が森から戻ったところで、話をしてみることにした。
「……という訳で、領主になってもらいたい」
そう言うと、マイフは驚いた様子で目を見開いていた。部下たちも「おおっ!」と声を上げてマイフを眺めている。
「遂に、我々の働きが認められる日が!」
「やりましたな……隊長!」
マイフは深々とお辞儀をした。
「その役目……謹んでお受けいたします」
我はすぐにピーター隊とデイヴィット隊を見た。
「君たちもマイフの手伝いをしてあげて欲しい」
「わかりました!」
マイフ一行が東の一枚岩へと向かって約3時間後。使い魔鳥が現地の様子を伝える手紙を送ってきた。
「ゾーイ、手紙を広げてくれ」
「はい青毛ち……ではなくてカッツバルゲル様」
青毛ちゃんでもいいのだが……ゴホン。
どうやら、一枚岩の辺りは日当たりが良いらしく、雪がほとんど解けているという。
「なるほど。そうなると建材があった方がよさそうですね」
「エストック。手伝ってきてくれるか?」
「お任せください」
マイフ一行は10日ほどで生活拠点を築くと、吾のダンジョンマスター帳にも3人目の領主としてマイフの名前が記された。
領主の霊力ポイントは300。手持ちのマナ量が140と少ないため、500ほど開拓用の予算として入れておくことにした。マイフは驚いたらしくて伝書鳩を寄越してきたが、この予算は領主祝いのようなものなので受け取ってもらった。
こうして吾のマナは残り1446。エストックもまた500をマイフの領内にいる妖精たちに振る舞ったらしく残り1185。マイフは640となった。




