新たな1年
そっと目を開けると、ゾーイをはじめとした女性陣が、人形のように吾を抱きしめていた。
あまりの寒さに耐えかねて炎の使い手に助けを求めたのだろう。外の様子を探ると気温も少しはマシになっていたので表へと出てみた。
一面の銀世界に立つと、吾の体からは湯気が立ち込めていた。
気温はマイナス5度~10度と言ったところだろうか。一時期に比べるとだいぶ暖かくなったものである。
「おはようございます。カッツバルゲル様」
ゾーイたちも目を覚ましたようだ。
「吹雪で動けないときは仕方ないが、冬場はどうしても運動不足になりやすい。動けるときには体を動かしておかないとな」
そういうと、彼女たちもしゃっきっとした顔をした。
「仰る通りです!」
雪かきや洗濯や料理などを分担しながら進めていると、マイフ隊が集落へと戻ってきた。
「陛下。森の見回りをしてまいりました」
「どうだった?」
「特に異常もなく、静かなものです」
彼は視線を動かすと言った。
「フローレンス殿も戻ったようです」
フローレンスはマイフの隣に並ぶと、お辞儀をした。
「カッツバルゲル様。新年あけましておめでとうございます」
「今年もよろしく頼む」
「今月のマナですが、申し訳ありませんが……長く吹雪に見舞われたため免除させていただいてもよろしいでしょうか?」
「構わん。木々や妖精にはゆっくりと休むように伝えよ」
そう答えると、フローレンスは深々とお辞儀をした。
「ありがたきお言葉……貴方様ほど慈悲深い領主に恵まれ、我々は幸せにございます!」
部下への給金はしっかりと払おうと思いながら、ダンジョンマスター帳を眺めると驚いた。何と今月は350ポイントしか振り込まれていない。
どうやら厳しい寒さの影響で、自分自身の体にも影響が出てしまったようだ。
まあ、それでも100ポイントの支払いくらいはできるので、マイフへの給金を支払った。
エストックも出てくると言った。
「あなた。今月は我が領内からのマナ収入はありませんでした。それから私自身のマナも半減しています」
「君もそうか。実は吾もだ」
「そ、そうだったのですか……」
吾の現在のマナは1284ポイント。エストックは1230ポイントとなっている。
マナ収入は大きく減る冬場だが、その分、ゴブリンの襲撃も冒険者が姿を現すこともないため、とても静かなものだ。
吾は時間が余ったときには、魚を能力で呼び寄せて冒険者たちに釣りをさせたり、夏場に温泉代わりに使っていた水たまりを少し熱めに沸かして、部下全員で入ったりした。
そして2月。この月も大半が厳しい寒さに見舞われたためマナ収入はなく、私やエストックのマナも半減することとなった。
自分のダンジョンマスター帳に記された1534ポイントや、エストックの1455という数字を眺めていると、精霊が姿を見せた。
「今もどりました」
「お帰りなさい。天気の良い日に見回りなどを行っていますが、これといって異常はありません」
そう報告すると、精霊はとても助かると言いたそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。あなた方が泉を守って下さるので、安心して神々への挨拶を済ませることができました」
喜んでもらえるのなら、我々としても嬉しいものである。
精霊はエストックへと視線を向けた。
「エストックのお腹の仔も順調に大きくなっていますね」
「はい。このままいけば今年の5月の終わりごろには生まれるかもしれません」
「実は、精霊神から……もし男の仔が生まれたらシャムシールと付けるようにとお言葉を賜っております」
その言葉を聞いて、吾やエストックは驚いていた。
精霊神とはガイアの異名も持つ地上の守護神である。名前を覚えてもらえるだけでも光栄な相手から名前を付けてもらえるとは……
「これは幸先がいいな!」
そういうと、エストックも涙をためながら笑った。
「何としても、この仔を丈夫に育てなければ……!」




