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泉王カッツバルゲル

 精霊はゆっくりと僕の角へと手を伸ばした。

「カッツバルゲル……よくゴブリンパラディンを倒しました。十分な実力を有しているので……貴方に新たなる力を授けたいと思います」

 彼女は右手に風の渦を纏い、左手に岩を持った。

「風と大地……好きな方の加護を与えましょう」


 風を選べば天翔けるペガサスとなり、大地を選べば森の神の加護を受けたハイユニコーンとなれる。泉を守る役目を考えると、この属性一択だろう。

「では、大地の加護を得たい」

「わかりました」

 精霊はしっかりと頷くと、僕の顔に自分の額を合わせた。

「カッツバルゲル……精霊ナイアデスの名において、貴方を王に任命します!」


 彼女が宣言すると、僕の角は90センチメートルほどの長さとなり、体周りには砂鎧が出現した。

 いや、胴体だけではない。頭から膝や蹄の先にまで僕の体は鎧のような砂にコーティングされ、単なる角馬から大きく姿を変えていた。

「その姿……まるで東洋で伝説となった一角獣……麒麟のようですね」

 それはいくらなんでも大げさだと思った。

 精霊の言っている麒麟は東洋神の一柱だ。はるばるツーノッパにまで噂が聞こえてくるということは低く見積もっても霊力はSランクの中位、唯一神に匹敵するS上位ランクだったとしても不思議ではない。



「凄いのは貴女や貴方にこの技を授けた者だ。僕単体でこの……Aランク上位になるには生涯の全てを捧げなければならない」

「我が師、初代カッツバルゲルはこうも仰りました。この森の民にとっては異国の偉大な神より、身近な貴方こそが最も大切な存在です」

 僕は心の底から、初代カッツバルゲルの偉大さに畏怖と敬意を抱いた。

「仰る通りかもしれません……神に姿が似ている者として、それに恥じぬ行動をとるように心がけましょう」


 僕が振り向くと、マイフたちは一斉に胸に拳を当てて跪いた。

 彼らがそうする理由はわかるが、ピーターたちまで緊張した様子でそんな行動をとらなくてもいいと思うのだが……

「……おめでとうございます!」

 マイフが言うと、僕も頷きながら答えた。

「ありがとう。これもみんなが僕を支えてくれたからだ」

「も、勿体なきお言葉……我らは凡庸な身ではございますが、陛下のお役に立てるように全力を尽くしてまいります!」


「あ、あの~」

 僕はピーターたちへと視線を向けた。

「どうした?」

「我々も、カッツバルゲル様の騎士にしてください」

 なるほど。まがりなりにも森の王様となったのだから、人間の部下もいた方がいいかもしれない。

「いいだろう。森の平和と秩序を守るために、君たち12名を臣下として迎え入れよう」


 ピーターやデイヴィットたちの表情は一瞬にして明るくなると、笑い合いながらお互いを見合っていた。

「あの、カッツバルゲル様」

「どうしたの?」

 デイヴィットは僕を見ながら言った。

「余計なお世話だったらごめん。王様なんだから僕以外で自分を呼んでみたらどうでしょう?」


 彼の意見を聞いた部下たちは、そうだよなと言いたそうに頷いていた。

「確かに、威厳を出すためにも余と名乗ってはいかがでしょう?」

 マイフが言うと、ガガンも頷いた。

「それは良い考えですな」


 確かに王様なのだから、いつまでも僕と名乗っているのも何だかなという気分になるか……。けれど、僕は元は荷物運び馬なのだから、そんな大層な一人称を名乗るのは気が引けるのも事実だ。

「では、ニセ麒麟を略して偽麒と名乗るか……」

「い、いえ……それではあまりにも卑屈すぎます!」

 マイフが言うと、他の仲間たちも頷いた。

 いいアイディアだと思ったのだけど、これは却下か……では、どう名乗るのがいいだろう?


 少し悩んでいたら精霊が言った。

「では、(ご・われ)吾輩(わがはい)と名乗られてはいかがでしょう?」

「その言葉は、どういう意味なの?」

「自分のことを指す以外にも、留めるや守るといった意味があります」


 マイフ達は納得した様子で僕を見てきた。

「是非、そう名乗られたらいかがでしょう?」 

「そ、そうだね。今日から僕……ゴホン、吾は王となった。これからもみんな僕を支えて欲しい」

「ははっ!」

 一同が頷くと吾は言った。

「では、ゴブリン隊の残存兵を叩く。エストックをリーダーに、マイフ隊、フローレンス、ピーター隊で救出活動とゴブリンのせん滅をして」

 一同は、しっかりと頷くと「直ちに!」と声を上げた。

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