ゴブリンパラディンの動向
仲間たちも緊張した様子のままゴブリンパラディンの動向を見守っていると、ゴブリン隊は南西方向へと歩みを進め、僕の領内とは一定以上の距離を保っているように思えた。
使い魔鳥から情報を得ると、狼隊長マイフも首を傾げている。
「南側から進行してくるつもり……でしょうか?」
「いや、そもそも僕を倒すにしては勢力が大きすぎる」
そう。ゴブリンパラディンも王様なら、部下が手柄をたてたときに恩賞を払わないといけない。
僕ことカッツバルゲルを倒した褒章が僅かなマナと角だけなら、部下も不満に思うことは間違いないだろう。
エストックも僕を見た。
「私たちを倒して得られるものは、そう多くはありませんからね」
「ああ、だからこれほどの大軍を率いていること自体が不思議でならないんだ。こちらには盟主である精霊様もいらっしゃる。言い方は悪いが……倒すことに苦労する割には、僕らを倒したとしても見返りがなさすぎる」
話を聞いていた精霊も、それはそうだと言わんばかりに頷いた。
「だとしたら、狙いは別にある……ということですか」
再度、南側の偵察を行っていた使い魔鳥が戻ってきた。
「ピピピピィ! ピィ!!」
マイフたちだけでなく、冒険者のピーターたちも注目するなか、僕は頷いた。
「どうやら連中は、南側の森を無視して冒険者街の方角に向かったようだ」
「冒険者街!?」
ピーターは隣にいたデイヴィットと顔を合わせた。
「もしかして、冒険者街に攻め込むつもりなのか?」
「あり得ますよ。ゴブリンパラディンは冒険者に仲間たちがやられたと思っているでしょうから」
僕はダンジョンマスター帳から、使い魔鳥を新たに1羽購入することにした。タイプはトンビ。偵察も敵対勢力の使い魔鳥も倒せる優れものである。
「ポイント100か。だけどそれなりの働きはしてくれそうだな」
引き換えると、目の前に生えている木の枝にトンビが姿を見せた。なかなか頭のよさそうな子なので、すぐに配下の鳥を紹介することにした。
僕はトンビの額に角を近づけ、南側に配置した番鳥と、東側の見張り鳥の姿を伝えると、トンビは理解したと言いたそうに頷いた。
「わかったかい? 君の普段の仕事は彼らの護衛。あと、ゴブリンパラディンの軍勢が不穏な動きをしているから偵察して欲しい」
トンビはコクリと頷くと、大きな翼を広げて飛び立った。
「……彼は、どんな情報を持ち帰って来るのでしょうか?」
ピーターたちの表情は不安げだった。冒険者街には知り合いもいるだろうから、この物事の結末が気になって仕方ないのだろう。
「とりあえず、君たちはここで待機していた方がいい。下手に近づくとゴブリン隊の猛攻を受ける」
「え、ええ!」
トンビが戻ってきたのは、それから2時間後のことだった。
「どうだった?」
トンビは頷くと、そっと僕の角に自分の頭を近づけてきた。
その記憶の中では、ゴブリンパラディンが隊列を組んで冒険者街の門へと近づき、号令と共に一斉攻撃をしている場面がありありと伝わってくる。
「……どうやら、ゴブリンたちは冒険者街の門に攻撃を仕掛けたようだ」
ピーターたちは目を剥いて僕に注目した。
「そして、守備隊は守り切りましたか!?」
「…………」
トンビの記憶には続きがあり、十数匹のゴブリンが攻撃を受けて倒れたが、ホブゴブリンやゴブリンナイトの破城槌の攻撃を受け、城門が突破される記憶が伝わってきた。
そして、ゴブリンたちが冒険者街になだれ込んでいく。
「門は……突破されたよ」
ピーターたちの表情が凍り付いた。




