ホエズラー、白馬に鍛えられる
白馬にひれ伏したあと、俺は森へと連れて行かれて穴を掘るように命じられた。
なんだなんだと思いながら掘ると、今度はその中へ入れと命令してきたのだから不審に思ってしまうものだ。
「ふふふ……でははじめましょう」
コイツは、前脚で土を穴に落としながら、俺を土の中へと閉じこめやがった。
すっかり埋められてしまった俺は、顔だけを出した状態で白馬を睨むほかなかった。
「おい、これはどういうつもりだ!?」
「決まっているでしょう。修行ですよ……まずは、どのような環境に置かれても平然としていられるように精神から鍛えないとね?」
白馬は俺の前で蹄を下ろすと、土の中の俺の体は何かに縛り付けられた。
「ぐおお……何だこれは!?」
「あなた自身が逃げ出してしまっては、せっかくかけた時間が無駄になってしまいます」
コイツはそういうと、今度は枝を眺めた。
すると枝は意志を持ったかのように独りでに先を伸ばして、俺の頭上へと伸びてきた。
「な、何をしようってんだ!?」
白馬は目を細めると、俺の頭の上に水滴のようなものが垂れはじめた。しかもけっこうと冷たいやつだ。
ピタ、ピタ、という具合に水滴は同じ場所に落ちてきて、不快感が溜まっていくように感じた。
「おい、なんだこれ!?」
「修行と言ったでしょう。私がいいというまで、その責め苦に耐え続けるのです」
「俺はこんなこと頼んじゃいないぞ!」
そう必死に訴えると、白馬はにんまりと笑った。
「ほう……そうですか。では、私と出会う前の状況を思い出してください。貴方は有用なウマをきちんと判断できずにパーティー追放した。そこからは石が転げ落ちるように任務は失敗続き……そしてCランクという素人冒険者が行うような任務で……」
「や、やめてくれえ!」
俺は耳を覆いたくなりながら叫ぶと、白馬は普通の表情に戻った。
「今までの屈辱と挫折に比べれば、その程度はなんてことないはずです。それよりも貴方は、これ以上の挫折を味わいたいですか?」
俺は心の底から、この白馬は悪魔だと思った。
この心の最も弱い部分をピンポイントで触り、爪を立てるふりをしてきやがる。もし逆らえば、本当に心臓をわしづかみにするように俺は容易く廃人か何かにされてしまうだろうと思えた。
どうしてこうなったんだ? 俺があの役立たず1号を追い出したせいだろうか? いいや、違うよな。俺が弱かったせいだ。弱いことは罪なんだ。強いヤツというのはいつだって弱者から奪う。アイツらは常に生死与奪の権利を持っているんだ。
げ、白馬が俺の目を観察するように眺めてきやがった。
「いいですね、その目です……その目」
め、メチャクチャ白馬の目が怖いんだけど……
「そんなに怯えた顔をしないでください。さっきの表情……とても魅力的でしたよ。ふふ……もっと見たい。どうすれば黒磁の名品のような目をもう一度見れるのでしょう?」
こいつやっぱり怖えよぉ!
「水滴の量を増やしますか……」
「やめ、やめやめ、頼むからこのままにしてくれ!」
そう懇願すると、白馬は心底がっかりした表情で俺を眺めてきた。
こ、コイツに気に入られると怖いけど、ガラクタだと思われて捨てられるのも、それはそれで怖いんだよなぁ。
「そうですか。まあ、旅路は長いのだからゆっくり参りましょう」
「はい、はい、はい! ホエズラーめはどこまでもお供しますよ!」
だから、ヤバい目で俺を見つめないで。ついでに見捨てないでくれよ白馬さんよぉ……




