8月を迎えた一行
僕はピーターたちに、獣にかまれたり引っ掻かれた際の注意点を教えていた。
「つ、つまり……生き物の歯には邪気が宿っていることがあるんですね?」
「そう。邪気は傷口から侵入して、身体の中の生命力の調和を乱す。防ぐには清潔な水ですぐに傷口を洗って」
「は、はい……」
講義にも熱が入りはじめたとき、森から複数の視線を感じた。
横目で確認してみると、フローレンス率いる妖精組が僕を眺めながら待機していた。そう言えば今日は8月1日だった。
「少し、休憩にするよ」
とりあえず、頭を切り替えて領地経営と行くか。
僕の領地は、先月分は1094ポイントがそのまま繰り越され、霊力で600。更に土地からは524ポイント。マイフに100の給与を払い……2118ポイントか。
「何か、困っていることはある?」
妖精たちに聞くと、フローレンスが代表して答えた。
「では、先月の続きで荒れ地に進出したいので……300ほど頂けると……」
「わかった」
これで残りは1818ポイントか。
さて、エストックの領地はどうなのだろう? 横目で確認してみると、彼女はこちらを見た。
「収支を合わせると、1180ほどポイントが残っています」
お互いにポイントが余っているので有効利用を考えていると、精霊がタイミングよく姿を見せてくれた。
「精霊様。ポイントが余っているのですが、誰か有能な使い手はいませんか?」
エストックが質問すると、精霊は彼女を眺めていた。
「もし、2500ほどあれば……エストックさんを上位ユニコーンに進化させることができそうですね」
そんなこともできるのかと、僕は自分のダンジョンマスター帳を眺めた。
獣を重臣とするページを出し、エストックに向けると言われた通り2500と必要ポイントが表示された。今までは200から500だったため、上位ユニコーンへの進化がいかに高コストかがわかる。
いや、もしかしたら一般の馬をユニコーンにするには200から500ポイントがかかり、エストックの場合は既に霊力を持つ存在だから、2500という法外な額を要求されているのかもしれない。
「じゃあ、僕からは1500ポイントを出そう」
「え? しかし……私は自分のために……」
「お互いにポイント無しになると、いざとなった時に困ることにもなりかねない」
エストックは遠慮したが、このように押し切ると彼女は1000ポイントを出してくれた。
そして、エストックに向けると、炎か水のどちらかの属性を与えることができることがわかる。
「どっちにする?」
「では、炎で」
炎と聞いて少し意外だと思った。エストックは普段はとても穏やかで優しいイメージがあったからだ。表情に現れていたのか、エストックは泉を眺めながら言った。
「じきに冬がやってきますからね」
確かに、この辺りの冬はとても厳しく、炎使いが僕1人では回復の泉を守るのも困難ものになるだろう。彼女は気が利くので本当に助かる。
「わかった。要望通り炎で……」
マナポイントを払うと、エストックの白い角が赤く輝きだし、足元の枯れ葉や周囲を飛び回っていた虫が焼け落ちていくのがわかった。
同時にマナポイントも、僕の分が318ポイントになり、エストックの方も180ポイントとなっていく。
「精霊や妖精たちのおかげで贅沢ができた。恩返しの意味でも、また働くとしよう」
「私のことも、たくさん使ってやってください」
そのエストックの言葉を聞いて、僕はとても満足した。
「もちろんだ。存分にその手腕を発揮してくれ」
とはいっても、これといった外敵がいない時にやることと言えば、ピーターたちの指導くらいだ。ここはエストックにも手伝ってもらって、様々なことを彼らに教えるとしよう。




