あっという間に過ぎ去った6月
回復の泉に戻ると、僕は再びダンジョンマスター帳を開いた。
僕の残りポイントは400。エストックの残りポイントは470となっている。
「考えてもみれば、ツリーおじいちゃんひとりでは、何かあった時に心配ですね」
「ふむ……誰か護衛用の重臣を1人くらい付けた方がいいか……」
話を聞いていた精霊も頷いていた。
「そういうと思って、良い動物を見つけておきましたよ」
彼女が手招きをすると、立派な角を付けたヘラジカが姿を見せた。攻撃力も防御力もある、なかなかに頼もしい種族だ。
「ヘラジカか!」
エストックが冊子を広げると、200ポイントという数字が出た。
彼女は頷くとヘラジカは光に包まれ、おや、姿はあまり変わらなかった。
「…………」
「…………」
失敗したのだろうかと思ったとき、ヘラジカはゆっくりと喋りはじめた。
「重臣に取り立てて頂き、ありがとうございます。僕はルアイン谷で4番目に生まれた者です」
彼と挨拶を済ませると、僕は言った。
「君には神木の護衛をお願いしたい」
「かしこまりました」
場所を具体的に伝えると、ルアイン4はすぐにジイの所へと向かった。
特に命令することもなくなったので、エストックと仲良く水辺の草を食んでいると、狼隊長のマイフがやってきた。
「おお、これはマイフ殿!」
「ガガン殿……カッツバルゲル様はいらっしゃるか?」
「あちらに」
草を食むのをやめて歩み出ると、マイフは跪いて言った。
「カッツバルゲル様。今日はせ参じたのは他でもありません……ダンジョンマスターへの就任、おめでとうございます!」
「ありがとう。とても嬉しいよ!」
マイフはエストックへと目を向けた。
「また奥方様。エリアマスターへの昇進、重ねてお祝い申し上げます」
「ふふふ……奥方様なんて言われたら照れます」
「ささやかながら、敵ゴブリンナイトを討ち取ってまいりましたので、是非お納めください」
マイフが120ポイントのマナを差し出すと、ガガンは羨ましそうに眺めていた。
「わ、我にも是非……槍働きの機会を!」
「貴殿には、泉を守るという大事な使命があるだろう。ゴブリン退治は我らに任せておけ」
「いや、私だってゴブリン退治もできますぞ」
僕は、ガガンが泉の守りから外れたら困るなと思いながら答えた。
「もう少し戦力が充実したら考えてみよう。それまではすまないが……」
ガガンとマイフは「ははっ!」と返事をしながら深々とお辞儀をした。
この後、僕らは悪い冒険者やゴブリンたちへの守りを固めていたが、6月中旬に差し掛かると長雨に見舞われ、結局のところ何も問題は起きないまま6月末日を迎えることとなった。
「結局、何も起こらないまま明日で7月か……」
そう呟くと、隣にいたエストックも意外そうに頷いた。
「こんな月は初めてですね」
「うん……」
この様子だと、冒険者たちもほとんど仕事ができなかっただろう。
彼らも長い冬を迎えるために春や夏のうちに生活費を稼ごうとするはずだから、7月からは忙しくなりそうだ。




