ユニコーンの力
精霊は僕の40センチメートルほどの角を眺めた。
「その角は、誰かの形見なのですか?」
「いいや違うよ。必要に迫られて自力で作った」
「な、なるほど……道理であなた自身にとても馴染んでいる訳です」
「ありがとう」
「馬がユニコーンになる一番の関門は、最初の角を生やすことです。既にその問題をクリアしている貴方なら話は早いでしょう」
彼女はそういうと、倒れているノウサギを指さした。
「あそこに倒れているノウサギに角を近づけてみなさい」
「え? うん……」
僕は言われた通りに倒れているノウサギに角を近づけると、脳裏にノウサギが子供だった時の記憶が流れてきた。
「こ、これは……!」
「ユニコーンは処女かどうかを判断する力がある……という噂は御存じですか?」
「え、ええ……」
「その噂は半分は正しく半分は間違っています。ユニコーンホーンには善良な人間か悪人かを瞬時に判断できる力があるのです」
目から鱗が落ちるような気持ちだった。角はただ魔法が使えて、敵の攻撃を交わすだけの戦いに便利な代物としか考えていなかった。
しかし、考えてもみればユニコーンは戦うために生まれてきた生き物ではない。
「つまり、善人か悪人かは……角が教えてくれると?」
精霊がその通りですと言いたそうに頷くと、僕はなるほどと感心した。
この力を使えば、人間は思った通り本当に悪ばかりなのか、それとも少しは救いようのある生物なのかという判断ができる。
「引き受けて……頂けますか?」
僕はしっかりと頷いた。
「ありがとうございます。では、私からささやかながら贈り物をしたいと思います」
彼女はそういうと、右手に風の渦を纏い、左手の岩を持った。
「風の加護と地の加護……どちらかお好きな方を差し上げましょう」
僕は少し考え込んだ。
「炎はないの?」
炎という言葉を聞くと精霊はキョトンとした。
「炎ですか……? 水の反属性になってしまいますよ?」
「善人をねぎらうのだから、温泉に浸かって体の疲れを癒して欲しいんだ……」
こうは言ったが、僕は内心では別のことを考えていた。
確かに精霊の言う通り、炎と水は対立する仲の悪い組み合わせである。しかし、誰もが習得を避けるような組み合わせで魔法を覚えれば、敵対者から見てやりづらい相手となることができる気がする。
まあ、そうはいっても温泉に浸かりたいというのは本音のひとつだけど……
「温泉は……ダメ?」
精霊はじっと僕の瞳を眺めると、にっこりと笑った。
「大丈夫でしょう。ただ、泉の温度が上がれば、魚や周囲の植物に迷惑をかけないためにも、あそこに設けましょう」
精霊が指さした場所は、滝つぼからは少し離れた場所にある岩の入り組んだ場所だった。
精霊から炎の加護を得ると、角は紫色に光を放ち70センチメートルほどまで伸びた。すると僕の周りには蒸気が現れ、近づいてくる蚊やアブが次々と火傷をして地面に落ちていく。
どうやら反属性の習得に成功したようだ。
「泉の守り手に相応しい姿になられましたね」
「今までの僕の実力は、Bランク上位……近衛隊員くらいだったけど、今はAランクの中位……師範、達人クラスの力量があると思う」
そう言って泉の先に広がる森を睨んでいると、精霊は思い出したように言った。
「そうそう。今の貴方はエリアボス……転移者風に言えば中ボスという扱いなので、エリアマスター帳をお渡しします」
精霊が差し出してきた冊子は、独りでの僕の目の前に浮遊すると、ページを捲りたいと思ったら目に見えない手で動かしたようにページが変わった。
最初のページには600ポイントと記されており、何かを召喚したりするとポイントが減る仕組みになっているようだ。
「600……凄いマナポイントね」
「これ、どうやったら増えるの?」
「月ごとに、あなた自身の霊力が加算され、後は泉の周辺に住む小妖精たちがマナを貢物として献上してくれます」
「なるほど……」
そう言った直後に、小指くらいの大きさのフェアリーたちが飛んできて僕の前でお辞儀をした。マナを献上してくれると嬉しいけれど、何だか物欲しそうな顔をしているようにも思える。