ダンジョンマスターに出世
6月がやってくると、僕のエリアマスター帳に600ポイントが加算された。
先月分の繰り越しが236ポイントなので、836ポイントとなっている。ここから今月分の活動費としてマイフに100ポイント振り込むと、残りは736ポイントとなった。
そこへ妖精たちも飛んで……おや、また彼女たちの体はちょっぴりと大きくなっていた。
「カッツバルゲル様。今月分のマナでございます」
394ポイントかなと思いながらエリアマスター帳を見ると、何と464ポイントが入っていた。
「凄いな……一気に120ポイントも増えるなんて……!」
「それほど喜んで頂けるのなら、妖精たちも頑張った甲斐がありますと言っています」
僕は上機嫌になりながら言った。
「困っていることは?」
そう聞くと、妖精たちはすこし考えてから答えた。
「朽ち木や枯れ木を粉末にして肥料にしたいので、300ポイント頂けたら幸いです……という意見があります」
「わかった。その通りに進めてくれ」
300ポイントを渡すと、妖精たちはすぐに作業へと向かった。
さて残りは900ポイントか。まずは精霊にポイントをと思っていたら、本人が姿を見せた。
「精霊様。早速ですが今月は……」
「そのまま据え置いてください」
「よろしいのですか?」
そう聞き返すと、精霊は頷いた。
「実は、北東部に霊力を持つ巨木を見つけたので、エストックをエリアマスターに任命しようと思うのです」
なるほど。エストックにも高い霊力があるのだから、彼女にも軍団を率いてもらった方が都合がいい。
「僕も賛成だ」
そう返事をすると精霊は微笑んだ。
「では、カッツバルゲルをダンジョンマスターに任命します」
「ダンジョンマスター?」
「はい。今のカッツバルゲルは2つ以上の領地を持っているので、マスター帳の機能も拡張しないといけません」
「わかりました」
エリアマスター帳を差し出すと、精霊は両手を光らせて、より厚くなった冊子を僕へと差し出してきた。
「では、これからも森のため……そして良き行いをする人々のために尽くしてください」
「頑張ります!」
ダンジョンマスター帳の1ページ目を見ると霊力のページが出てきたが、自分の霊力が記された欄の下に、領主であるエストックの項目が現れており、霊力350と記されていた。
「早速、その岩へ行ってみるか」
「はい」
僕が歩き出すと、エストックは少し後ろを付き従うように歩いた。
現場に到着すると思わず唸っていた。
樹齢は少なく見積もっても2000年はありそうな巨木からは、清浄な気が流れ出ている。恐らくだが、長い年月を経て神格化したのだろう。
「立派なものですね」
「ああ……見事なものだ」
そう眺めていたらダンジョンマスター帳が光った気がした。試しに重臣化のページを開いてみると、500でこの巨木を進化させることができるようだ。
「やってみるか……」
500ポイントを支払ってみると、その巨木の幹のくぼみが動き、ゆっくりと目のような模様が現れた。いや、これは目だ。
彼は穴の開いた場所……口から声を出した。
「貴殿が……ダンジョンマスター殿か」
「カッツバルゲルです。そして隣にいるのがエリアマスターのエストックです」
「よろしくお願いします……ええと……」
そう言い澱むと、巨木は目を細めて笑った。
「私はツーノッパトウヒ。まあ名前を考えるのも面倒だしジイとでも呼んで欲しい」
「では、ツリーおじいちゃんと呼ばせていただきます」
エストックが言うと、ジイは「ほっほっほっほ……」と笑い声を響かせた。
「私自身に領主となる力はないが、内政なら任せて欲しい」
「よろしくお願いしますね」
ジイは頷くと、森の中の様子を見渡した。
「ふむ……とりあえずフェアリーたちに頼んで、害虫でも駆除してもらおうかのう……ああ、その前にマナを集めねばな」
彼は320ポイントのマナを集めた。この地域の妖精は小さく、どんなに多く見積もっても120前後のマナしか持っていないと思われるので、200はツーノッパトウヒのジイが集めたと思われる。
「200ポイントほどを内政に用いるので、残りは奥様と旦那様の好きに使われるがいい」
なるほど。実質的に彼が施政を行うことになりそうだ。




