カッツの大盾
回復の泉に戻ると、僕はすぐ精霊に報告した。
「今、戻りました」
「お疲れ様です」
「交戦の結果、ホブゴブリン3体、一般ゴブリン34体をせん滅しました」
「遠くから戦いぶりを拝見しましたが……あれほど怖い目に遭わせれば、ゴブリンの間でも貴方は有名になるでしょう」
小気味よさそうに笑っている精霊を見て、何だか寒気を感じた。
「そういえば精霊様」
「なんでしょう?」
「ご自身でゴブリン狩りをなさらないのは、力が強力すぎるからですか?」
そう質問すると精霊は頷いた。
「私自身が、地上で力を使うとマナバランスを大きく壊してしまいますからね。神や仲間内の間で使用は大きく制限されているのです」
彼女が戦えば、大抵の敵には勝てるだろうが、そう簡単にはいかない事情があるようだ。
一角獣エストックも、納得した様子で頷いた。
「精霊様が力を発揮できないのなら、我々が頑張るしかありませんね」
「ああ……その通りだね」
そう言って笑い合いたいところだが、エストックはどこか心配事がある様子で言った。
「ん……どうしたの?」
「こうなってしまったのは私のせいなのですが……」
「遠慮せずに言って」
これからは、ゴブリンたちも頻繁に攻撃してくる可能性がありますし、冒険者の襲撃が同時に起こることもあり得ます」
確かにその通りだと思った。悪い偶然が重なって2方向から同時攻撃を受ければ、こちらは戦力を割かれた状態で、多くの敵を相手に戦わないといけない。
最悪の場合は森を捨てて、この泉を守ることにもなるだろうが、そうなってしまったら森が荒らされて今までの内政の努力が水の泡になってしまう。
僕は精霊やエストックを見ながら言った。
「この泉の前にも、マイフのような重臣を配置したいところだね」
精霊は思い出したように言った。
「ならば、彼などはいかがでしょう?」
彼女が指をはじくと、大きめの水トカゲが姿を現した。
「なるほど……近くに川もあるし便利かも……」
僕はそう言いながらエリアマスター帳を開いて、野生動物を重臣化させるページをトカゲに向けた。すると……
「250ポイント!」
さすがは精霊。またレアな力を持つ者を見つけてきてくれた!
早速コストを支払うと、水トカゲは身長2メートルほどのリザードマンへと進化した。
裸の状態でも、レザーアーマーを着たのと同じ防御力を持つ戦士なのだから、彼らはいるだけで他の種族の者にプレッシャーを与える。
「主様。この度は重臣として取り立てて頂き……ありがとうございます」
リザードマンは、なかなか低く渋い声で挨拶してくれた。
「僕の名はカッツバルゲル。よろしくね」
「わたくしめは、ガガンと申します……戦場での活躍を是非、ご覧くだされ!」
「実は、君に頼みたいのは警備なんだ」
「なるほど。わたくしめはいかなる場所を守ればよいのでしょう?」
僕は回復の泉の入り口へと目を向けた。
「あそこさ。僕やエストックが、泉に入るには相応しくないと判断した人物の侵入を阻止して欲しい」
「重要な役目ですな。承知!!」
「新しい仲間が増えたことをマイフに伝えないとね」
「マイフとは?」
「東の要衝を守る狼隊の隊長だよ」
そう答えると、ガガンは早くも興味を持ったようだ。
「ほほう……それは是非、会ってみたいものです!」
確かに同じ地域を守る仲間なのだから、マイフとガガンは早めに会っておいた方がいい気がする。




