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STORY TELLER  作者: 茶々丸
魔法邂逅編
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002 異世界?


「う、うーん……何が起きたんだ?」


頭がガンガンする。確か先輩達から逃げて、旧校舎に駆け込んだまでは覚えているが……


もしかして、あの後捕まって先輩達にボコボコに……いや、今の時代そんなことしたら大変なことになるか。


身体を起こし、周りを見回してみる。どこかの建物のようだ。

窓は全て割れており、ガラスの破片が床に散乱している。

2階は……あるようだが、ほとんど床が抜けており、階段も壊れてしまっている。


旧校舎なんて学校見学でしか入ったことがなかったが、明らかここは中学校の旧校舎ではない。

旧校舎とは言え、まだ使われている準備室とかはあったはずだし。


じゃあ、ここはどこだ?


「た、太陽?どこにいるの?」


建物の奥の方から先輩……里穂姉の声が聞こえる。

そうだ!里穂姉と一緒に旧校舎に駆け込んだんだ。あまりにも状況が理解できず、頭から抜けてしまっていた。


「里穂姉?ちょっと待ってて。今行く!」


携帯電話のライトをつけて奥に進んでいくと、里穂姉が隅の方にうずくまっていた。

俺と目が合うと、有無も言わせず飛びついてくる。


久しぶりに抱きつかれて、小さい頃のことを思い出して少し安心する。

しっかり抱きしめながら怪我の有無を確認する。


「里穂姉、怪我はない?」


「う、うん、大丈夫。た、太陽も大丈夫?」


泣いてるのか?

俺は頷いて顔を覗き込もうとするが、抱きついたまま離れようとしない。


幼なじみの中でも一番年上で、一番落ち着いていて。そんな里穂姉がこんなに取り乱すの珍しい。

当然だ。急に見知らぬ場所に放り出されれば、誰だって不安になる。


俺も不安だし、めちゃくちゃ焦ってる。

でも……こんな里穂姉の前でそんな姿は見せられない。


それから10分。気持ちの整理が少しついたようで、俺の胸から顔を上げた。


「ねぇ、これ夢じゃない……よね。」


「うん。俺もそう思ったけど、意識もはっきりしているし、感覚もある。現実だと思う。」


認めたくない、認めたくないが……


「そういえば……久しぶりに太陽に里穂姉って言われたような気がする。」


「だ、だってさ、こんな状況だし、焦ってて…」


「だってじゃないぞ!後輩くん!」


頭をこつっとされて、ニヤリと笑う。

いつもの里穂姉だ。

もしかしたら俺の不安な気持ちを見抜いたのかもしれない。気付かれないようにしてたんだけどな。


「さてと。とりあえず見回したところ、やっぱり旧校舎ではなさそうね。私は何度か来たことがあるけど、教材置き場にしてる先生も結構多いみたいだったし。」


里穂姉も俺と同じ意見だ。

やはりここは俺達が逃げ込もうとした旧校舎ではない。

建物の造り自体は似てるような気がするけど。

と、その時……


ガシャーン!!


「えっ!?」「ひっ!!」


また里穂姉が飛びついてくる。めちゃくちゃ強い力で抱きしめられて、首が締まる。


「今の音、何!?」


「り、里穂姉……苦しい、ギブギブ。」


「あっ、ごめん。」


恥ずかしそうに力を緩めるも、まだ腕は掴んだまま。柔らかい胸が当たって俺の方も顔が赤くなる。

里穂姉、こんなに胸大きかったっけ……

世の男子達が騒ぐわけだ。


じゃなくてだ。今はそんなこと考えている場合じゃない。

あの音の正体を突き止めなければ。


「とりあえず見に行ってくるから、里穂姉はここで隠れてて。」


こういうのは男の務めと相場が決まっているんだ。

しかし、そこで納得しないのがこの人。


「な、何言ってんの。こ、こういう時はお姉さんの私が行くべきでしょ。」


「いや、でも、里穂姉怖いで……」

「怖くないもん。お姉さんなんだから。」


食い気味で否定されたが、足震えてますよお姉様。


「じゃあさ、一緒に行こう。だったらいいでしょ。ただ、本当に危なくなったら、里穂姉だけでも逃げて。約束。」


「……うん、わかった。太陽……なんかかっこいい……」


「急になんだよ、気持ち悪い。」


と言いつつも悪くない気持ち。

里穂姉みたいな美人に腕掴まれて、こんなこと言われたら、誰だってドキドキしてしまう。

幼なじみの俺だって……


「よし、じゃあ行くぞ。」


恐る恐る音のした方に近づいていく。気付かれないように音を立てずに。何かあったらすぐに逃げ出せるように。

1秒1秒が長い。呼吸が乱れる。


落ち着け、俺……


何かが見えた、あれは……人?

どうやら誰かが倒れているようだ。しかも2人?


ドンッ!!!


次の瞬間、俺は天井を見上げていた。

何が起こったかわからないが、倒れた衝撃で頭がクラクラする。

隣で里穂姉が叫んでいるが、何を言ってるのかわからない。

俺を倒したやつは、そのまま上に覆いかぶさって腕を抑えられる。


「逃げろっ、里穂姉!」


反射的に声が出た。とにかくこいつから里穂姉を逃さないと。

俺がどうなろうと里穂姉だけは、絶対に。


「ん?里穂?」


何?なんで里穂姉の名前を知ってるんだ?

というかこの声、どこかで聞いたことがあるような…


「海斗兄!太陽だよ!里穂姉もいる!」


この鈴の音のような声、間違いない!!


「海斗兄?若葉?」


俺の声を聞いて、腕を抑える力が緩む。里穂姉の携帯電話のライトが辺りを照らした。

鍛えられた体に、ショートカットの爽やかイケメンな男。

黒目がちな茶色い目に少し下がった眉、生まれつき茶色の髪をポニーテールにした美少女。


間違いない、幼なじみの海斗兄と若葉だ。2人とも緊張で顔は強張っているが間違いない。


「わー、わかちゃん!!」

「わっ、里穂姉!?」


突然里穂姉に抱きつかれ、若葉もびっくりする。その様子を見て、俺も海斗兄も完全に脱力して床に転がった。


「悪い、太陽。急に知らない場所に飛ばされて、気が動転してた。お前だって気付かないなんて……俺としたことが。」


「大丈夫、俺も同じことしようとしてたから。」


申し訳なさそうな海斗兄に、笑いかける。

こんな極限状況で、冷静になる方が難しい。


「ところで、なんで海斗兄と若葉がここにいるの?」


「そういえばそうね。私と太陽は一緒に旧校舎に駆け込んだからって説明がつくけど。」


「やっぱりそうだったのか。」


急に海斗兄が納得した表情になる。

若葉が先に口を開いた。


「いや実はね、2階から太陽となぜか里穂姉?が旧校舎に向かって逃げてるところを見かけてね。

中から鍵を開けてあげようかと思って渡り廊下から旧校舎に入ったら……」


「いつの間にかここに……いやー、まいったよ本当に。」


なるほど、そういうことだったのか。ってことは、やはり旧校舎が鍵だってことだな。


「さてと、じゃあ再会を喜んだところで。里穂、現状を報告よろしく!」


「そうだね。今のところ私が考えた可能性は2つ。1つは旧校舎の中に誰かが待ち構えてて、気を失わされてこの場所に運び込まれた可能性。」


「ひっ…」


若葉が小さく悲鳴をあげる。無理もない、それってつまり……誘拐ってことだもんな。

でも誘拐だとしたら……


「少なくとも俺達の体を縛りつけたりとかするよな。あと、同時に二箇所にいた俺達全員を気絶させるのは大変だし、そもそも中学校の中で誘拐なんて……」


「そう、いくらなんでも誘拐犯側にもリスクがありすぎる。」


確かに学校内で誘拐とか謎すぎる。


「そして2つ目の可能性なんだけど……これは可能性というか、現実的にはないなーって感じなんだけど。」


「なんだよ里穂姉、もったいぶって。」


そんな言い方されると余計気になるじゃん。

里穂姉は「うーん」と腕を組んで少し考え込んだ後、顔をしかめた。


「太陽はさ、異世界ものの本とかアニメとか、見たことある?」


「何それ?」


異世界??

いや言葉の意味はわかるよ、さすがに。俺、中学生だから。


「私知ってる。他の世界にワープしたり、死んで転生したりするやつでしょ。最近映画とかにもなってるよね……

でもあれは空想上のことで、現実には……あり得ないよね?」


若葉の顔が誘拐の話をした時以上に強張る。

俺も言葉が出てこない。だってさ、いや有り得ないでしょ。ここが異世界??


「里穂、その可能性を確認するためには。」


海斗兄は冷静に話を促す。

里穂姉は、4人全員を見回した後、真剣な顔で言い切った。


「外に出るしかないよ。」


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