リーズのお願い
翌日リーズは再び高草木家を訪問する。
「マダム、ようこそお越し下さいました。生憎ですが、奥様は本日は留守でして。」
出迎えてくれた女中が一礼して下がろうとする。
「お待ちになって。」
女中をリーズが呼び止める。
「今日は栄子様ではなくお嬢様に用があって来たの。」
お嬢様とは香子の方だ。
時は遡ること昨日、リーズは栄子とファッション対決をすることになった。それぞれお店の服で違う少女を着せ替えるのだ。
「あの、」
ちょうどその話になったときお店に居合わせた贔屓客春子が提案した。
「でしたら私達が今度ちょっとした祝賀会をしますの。貴婦人方の前で公開の対決をして投票で決めるのはいかがかしら?」
リーズは社交界にも多数顧客がいる、栄子のファッションを真似する貴婦人も少なくない。票に偏りなく互角な勝負になると思ったのだ。
春子の提案により、リーズは香子を、そして栄子はサリーを着せ替えることになった。栄子はサリーがパリコレクションに出演したことを知っていた。マヌカンのコーディネートができると喜んでいた。
リーズはファッション対決の相談で香子の元を訪れたのだ。
「マダム?!」
リーズが女中と話していると奥から香子が現れた。ピンク色の振り袖に花を生けた花瓶を持っている。中央に紫色のすみれが咲き周りには白とピンクの菊の花が囲んでいる。
「ごきげんよう、マダム。今玄関に飾ろうと思ったお花を生けていたところですの。」
「まあ、香子様が生けられたのですか?」
「ええ、わたくし幼い頃から先生に習っておりまして。」
(彼女、お花が好きなようね。)
「ねえ、今からわたくしのお店にいらっしゃらない?」
「ごめんなさい、わたくし洋装は興味なくって。」
「お客さんとしてではないわ。貴女にお願いしたい事があるの。」
リーズは香子を連れて馬車に乗り込む。何をお願いしたいか尋ねたが教えてはもらえなかった。
「止めて下さる?」
リーズは一軒の家の前で馬車を止める。そこは西洋建築の建物だ。しかし以前母と来たリーズの店ではない。
「少し寄り道していきましょう。」
香子はリーズと共に建物の中に入る。そこには色とりどりの花が並べられている。
「Bonjour ,Madame et Mademoiselle」
ブロンド髪にピンクのリボンをつけた少女が話しかけてくる。白い丸襟にピンク色のフリルのワンピースに白いフリルのエプロンをつけている。
「Bonjour, 」
リーズが挨拶する。香子も挨拶しようとするが言葉が出てこない。
「香子様、彼女はわたくしと同じで日本で働いているの。日本は長いから日本語も話せるわ。」
「いらっしゃいませ、お嬢さん」
花屋の少女は日本語で挨拶する。
「ごきげんよう。初めまして。」
香子も挨拶する。マダムは花屋に用があるのか?
「あの、マダム」
「驚かせてしまったわね、香子様にはお店に飾るお花を生けて頂きたいのです。」




