流行好きな貴婦人
「専属デザイナーになってくださらない?」
それが栄子のお願いだった。リーズは以前パリに戻った時オートクチュールのデザイナーから誘いを受けたことがある。しかし一貴婦人かが自分専属のデザイナーになってほしいとお願いされたのは初めてだ。
「ちょっと貴女何言ってるのよ?」
月子が栄子に詰め寄る。
「あら?貴女はどこかでお会いしたようだけど、どなただったかしら?」
栄子は月子のことを知ってるようだ。
「私以前帝国劇場で女優をしていて、主役をやったこともありますの。きっと舞台をご覧になったのでしょう。」
「貴女は確か!!」
栄子は思い出したようだ。
「確か脚本家誘惑して役を取っていた女優ね。当時は社交界の仲間の間で騒ぎになってましたもの。」
月子は忘れたい過去を蒸し返される。
「夫人!!それは昔の話です。今は自分の力で役を取ってますわ。ほら」
月子は一枚のチラシを渡す。自分が出演した映画で出演者欄の下の方に月子の名前も乗っている。
「夫人、劇場や一ブランドじゃあるまいし、専属のデザイナーなんてどうかと思います。」
「あら月子さん、かつてフランス王妃マリー・アントワネットにはロース・ベルタンという専属のファッションデザイナーがおりましたのよ。だから一個人が専属デザイナーを持つことは可笑しいことではありませんわ。ねえ、マダム?」
栄子はリーズに同意を求める。リーズはそれに対してええと答える。
「栄子様のおっしゃる通りマリー・アントワネット王妃には専属のデザイナーがおられました。彼女のおかげでアントワネットは宮殿内では注目の的。貴婦人達は皆こぞってアントワネットの真似をしていたと言われてますわ。」
「マダムは話が分かるわ。男に取り入ってばかりのどこかの主演女優さんと違って。」
栄子は月子に目をやる。
「貴女先ほどから失礼じゃありません?マダム、こんな人の言うことなんか聞かなくて構いません。マダムのお店がなくなったら私だけじゃなく花ちゃんだって寂しいわ。」
「私も月子さんに賛成です。」
声を挙げたのは白菊の生徒の1人だ。
「せっかくお姉様とお揃いのコサージュができて、また来ましょうねって話していたところなのに。お店なくなってほしくないです。」
「月子様も白菊のお嬢様方もありがとう。でも栄子様にも何か事実がおありかもしれないわ。」
リーズは栄子に席を勧める。
「栄子様、何か分けがあれば話して下さるかしら?」
「マダム、実はわたくし娘をイギリスに留学させようと思ってますの。」
「娘というのは律子ちゃんのことですか?」
「いえ、上の娘ですわ。」
栄子は娘が2人いる。1人は律子。今年6才で母である栄子に連れられお店に来たことがある。もう1人は香子と言って今年女学校を卒業した18才。律子の姉だ。留学するというのは香子の方だ。栄子は香子がイギリスで着れる服が必要というのだ。
「話は分かったわ。一度香子様とお会いすることはできるかしら?」




