プリンセスの階段
「貴女、何がおっしゃっりたいのですか?」
教頭先生が尋ねる。
「わたくしは彼女達がプリンセスの階段を登るのに力になりたいと申し上げております。
わたくしは元々地方の貧しい農村の娘でした。」
蘭子は自分の生い立ちを話す。農村の娘で12才で奉公に出されたこと、鮎子だけが自分に優しくしてくれたこと、14才のとき借金の方に遊郭に売られたこと。そして
「鮎子様は男装してわたくしを助けに来てくれました。それだけでなく地方出身で方言が強いわたくしに標準語、それから英語も教えて下さいました。そしてもう1人、わたくしに上流階級の華やかな世界を教えて下さった方がいらっしゃいます。」
蘭子はリーズに目をやる。
「マダムです。鮎子様に連れられてきたマダムのお店はまるで西洋のお城の舞踏会のような世界でした。マダムから購入したドレスのおかげでわたくしは淑女になれました。今日のわたくしがあるのはお二方のおかげです。お二方のご好意もまた愛情と言えるでしょう。」
「理事長先生。」
今度は鮎子が机の前にペンと小切手を出す。
「わたくし共西宮侯爵家が支援させて頂きます。ご希望の額をご記入下さい。厭目はつけません。どうか妻の想い受け取って頂きますか?彼女なりの王子様を待つプリンセス達への愛情です。」
「宮原先生」
理事長はすみれを呼ぶ。
「はい?」
「フランス語、ダンス、それから西洋料理のテーブルマナーを教えられる教師を探して下さい。それから講師を雇う予算額も調べて下さい。」
「分かりました。」
理事長は鮎子に予算を決めてから小切手を渡すと約束した。薔子達の願いは聞き届けられたのだ。
鮎子と蘭子は女学校を後にする。門の前には馬車を待たせていた。
「さあ、蘭子。」
鮎子に支えられ馬車に乗り込む。
「鮎子様、きっと彼女ですよね。春子さんが話してらした娘って。」
二人は春子から洋装の制服の注文のためにリーズの店に来ているお嬢様学校の少女の話を聞いた。洋装のドレスをつまむ少女の姿がかつての蘭子と重なったと聞いて支援しようと思ったのだ。その時
「蘭子夫人!!」
蘭子の名前を叫びながら向かってくる少女が1人。黄緑色にフリルのドレスを着た2つ縛りの小柄な少女だ。大きなピンクのリボンのついたフリルのポンチョを羽織っている。蘭子は再び馬車を降りる。
「貴女は先ほどの?」
「蘭子夫人、ありがとうございます。」
少女は頭を下げる。
「顔をお上げになって、えっと」
「かすみです。」
かすみは顔をあげる。
「蘭子夫人、私は孤児で今は特待生で学費は免除されて在学しております。私でも貴婦人になれますか?」
「勿論ですわ。」
蘭子はかすみの手を握り答える。
「そのためにわたくしがいるのですから。舞踏会で待ってるわ。」
蘭子は鮎子に再び手を支えられ馬車に乗り込む。
かすみは馬車が去っていくのを見送っていた。




