愛情
「先日はわたくしと千草の主宰するパーティーにご来場下さり誠にありがとうございました。皆様から頂いたお声のおかげでわたくしは制服を洋装化すると同時に本校の授業に西洋の貴婦人に必要なことを取り入れるべきと実感いたしました。」
総会当日薔子は壇上に上がり堂々たる演説をする。パーティーの参加者は勿論参加できなかった者も薔子の話に興味を持ち満場一致で薔子とかすみの提案は可決された。
翌日2人は理事長室に呼ばれた。そこには早川教頭先生にすみれ、それからリーズも来ていた。
「薔子さん、先日の演説素晴らしかったですよ。」
理事長は薔子に賛美の言葉を述べる。
「ありがとうございます。」
「そしてマダムリーズでしたね、どうか新しい制服の製作お願い致します。」
二人の願いは達成されたのだ。
「良かったわね。薔子さん、かすみさん。」
「はい、すみれ先生。」
3人は互いに抱き合い喜び合う。しかし
「制服の改変は受け入れます。ですが授業は変えることはできません。」
かすみの願いが一瞬で打ち砕かれた。
「理事長先生どうしてですか?」
「それは私が否決しました。」
口を開いたのは理事長ではなく早川教頭先生だ。
「教頭先生、酷いです。私への当て付けですか?!」
かすみは泣きながら早川先生に詰め寄る。
「違います。一つは予算の関係です。そしてもう1つ日本の女性にとって料理が子供や夫への愛情表現だからです。貴女は以前貴族のお家にはお手伝いさんがいると言いましたがそれでは貴女の子供や母親の愛情を知らずに育ってしまいます。」
かつて家庭科の授業で言われたことと同じ答えが帰ってきた。
「千草さん、貴女も夫や子供を持てば分かります。」
その時だった。
「失礼致します。お話伺いましたよ教頭先生。」
ピンクのドレスに蘭の花の髪飾りをつけた女性
が入ってきた。傍らにはグレイのスーツの美青年もいる。
「こんなところで会うとは奇遇ですね。マダムリーズ。」
青年はリーズに挨拶をする。
「鮎子様に蘭子様、本日はどうされたのですか?」
スーツ姿の美青年が鮎子、ピンクのドレスに髪飾りの貴婦人が蘭子である。二人はリーズの店の贔屓客だ。
「鮎子さんって女の人?!」
いつも冷静で優雅に佇んでいる薔子が大きな口を開けて驚いている。
「ああ、そうだよ。こんな格好だから驚くのも無理はありませんよ。マダム、春子さんから話を聞いたら妻が力になりたいと言うので連れて参りました。」
2人は籍はいれてないが夫婦だ。鮎子が爵位を継ぎ蘭子は貴婦人として鮎子と共に上流階級の集まりに顔を出している。
「初めまして。わたくし西宮蘭子と申します。教頭先生、先生のおっしゃる通り、夫や子供への愛情は大事です。しかし愛情というのは料理を作ることだけなのでしょうか?」
蘭子は早川教頭先生に視線を向けはっきりと告げた。




