誘惑の香り
「小笠原さん、貴女はどうしたいの?」
招待状を渡しながらすみれは優子に尋ねる。
「私は、私は洋装の制服賛成です。ショーウィンドウで見たドレスだって、着てみたいです。」
優子は緊張で高鳴る胸の鼓動に耐えすみれに告げる。
「ありがとう。貴女の気持ち聞けて嬉しいわ。後は私達に任せて。」
「ありがとうございます。」
優子は頭を下げると3人の元を後にした。
「先生、ありがとうございます。」
かすみはすみれの元に駆け寄る。
「かすみさん気にすることはないわ。私も貴女と同じ気持ちよ。」
すみれはかすみを抱き締めると髪を撫でる。すみれからは華やかな香りが漂う。
「先生、あまりかすみを惑わせないで下さる?」
薔子が割って入る。
「薔子さん、別にそんなつもりはないわ。それから制服が出来上がりそうなの。明日の放課後時間開けといてほしいわ。」
すみれは伝言を2人に伝える。
すみれが去った後もかすみはどこかぼうっとしていた。白い頬を真っ赤に染めて。
「ちょっとかすみ、どうなさったの?」
「薔子さん、今宮原先生から高貴な香りがしたわ。まるでベルサイユ宮殿の庭園に咲く薔薇の香りのような。」
かすみはまだ夢見ごこちだ。
「貴女、ベルサイユ宮殿の庭園行かれたことあって?」
「ないわ。だけど英語の教科書に描かれてる挿し絵を見たわ。だからきっと庭園はあんな香りでいっぱいなのだわ。」
かすみは何でも想像で話す癖があるようだ。
「かすみ、宜しければ放課後わたくしといらっしゃらない?宮原先生から漂う香の秘密教えて差し上げますわ。」
授業が終わるとかすみは薔子の家の馬車に乗せられる。馬車が着いたところは日本橋の百貨店だった。
「いらっしゃいませ。」
入り口には袴姿に白いフリルのエプロンの女性がドアを開けてお辞儀をする。彼女はドアガールだ。
店内を行き交うのはスーツを来た紳士や洋装の貴婦人と高級な衣服を身に纏った人ばかりだった。
かすみは店内をキョロキョロと見渡す。
「かすみ。」
薔子はかすみの手を握る。
「あまり余所見をしてはいけないわ。はぐれてしまうわよ。」
薔子に手を引かれてやって来たのは4階だ。
「こちらよ。」
そこにはリボンをかけられた瓶が並んでいる。
「薔子様?」
店の中から長身のブラウンヘアの女性が出てきた。白い丸襟に水色のワンピースを着ている。
「ミセスローズリー」
彼女はこの店のオーナーでイギリスからやって来た。日本で店を初めて3年になる。日本語も堪能だ。
「今日はお友達もご一緒?」
「ええ、同じ教室の娘ですわ。」
薔子はかすみを店の奥へ連れていくと桃色の液体の入った瓶を手に取る。
「かすみ、手を出して。」
薔子はかすみの手の甲に一液振り掛ける。
「かいでごらんなさい。」
かすみは手の甲を自分の鼻に近づける。
「いい香り。」
それはすみれからした匂いと同じ物だった。「これは香水と言って花の香りを醸し出してくれるのよ。」
「花?ベルサイユ宮殿の庭園の?」
「うふふ、かすみったら本当にベルサイユ宮殿が気に入ったのね。」
「薔子さん、私いい事思い付いたわ。この香水パーティーで皆にプレゼントするのはどうかしら?」
かすみは香水の虜になっている。




