2人の女学生
事の発端は4日前の家庭科の授業であった。すみれの受け持つ組で煮物を作ることになった。
「皆様、私達女性は殿方に嫁ぎ尽くし支える。それが女性の生き方です。そのために家庭料理の1つ2つは必要ですよ。」
そう話すのは家庭科の授業を受け持つ年配の教師早風あき。この女学院の教頭である。ミッション系の女学校で外国語やピアノなど西洋的な教育も行う一方、他の女学校と同様良妻賢母にも力をいれている。
そうなったのは時代が明治から大正になり彼女が赴任してきてからだ。
「皆さん宜しいですか?」
『はい。』
早川先生の問いかけに乙女達は声をそれえ答える。2人を除いて。
「先生。」
1人の生徒が声をあげ立ち上がる。
「どうしましたか?泉野さん」
泉野薔子。長く巻かれた黒髪に白いカチューシャをつけ青地に白い鳥の柄の振り袖に紫の女袴も上品に履いた長身の華奢な少女だ。
「わたくし理解できません。料理は家の女中がやってくださいます。わたくし達には必要なくては?」
薔子は侯爵家の1人娘だ。毎朝人力車で登校してくる。
「薔子さん、手料理は殿方、そして我が子への愛情です。貴女もお母様の手料理の味はどんなですか?」
「お母様は一度も料理はしませんわ。ですが一緒にお庭で歌を歌ってくれたり、ピアノを弾いてくださったり、素敵なお洋服を着せてくださったりと愛情を注いでくださりますわ。お父様もお母様の奏でるピアノの音色を笑顔で聞き入っております。手料理だけが愛情とは限りませんわ。早川先生の考えは古臭いというか平民的ですわ。」
「薔子さんまた言ってるわ。」
「侯爵家の令嬢だからと言って鼻にかけて。」
「感じ悪いわ。」
薔子の話で教室がざわつきはじめた。皆が口々に薔子の悪口を言い出す。
「静かに。」
早川先生の一言で教室が一瞬で静まりえる。
「泉野さんの意見に賛同できる方は挙手をしなさい。」
あきの鋭い一言が教室に響く。再び静まりかえる。
「誰もいないようですね。では授業をはじめます。」
その時
「先生」
1人の少女が後方の席で手を挙げている。
髪を二つに縛り赤いリボンを左右につけている。クリーム色の振り袖に桃色の女袴の少女だ。薔子とは対照的で小柄で下級生と見違えるようだ。
「何ですか?千草さん」
千草かすみ。それが彼女の名前だ。彼女は成績優秀な特待生である。試験は常に学年で5番以内に入っているため学費は免除されているのだ。
「私も泉野さんの意見に賛成です。」
かすみは先生に対して言い放つ。
「先生、泉野さんのおっしゃるようにお城には召し使いがおります。それに煮物って地味で美味しくないですし西洋のお城ではハンバーグやスパゲッティー、それからケーキと言ったもっと美味しい物を食べると思います。」
女学生2人の名前は過去に挫折した没作品の登場人物から取りました。
違った形でいかせたらと思ってます。




