鮎子の投獄
「いやー、やめて!!助けて!!」
椿の悲鳴がこだまする。
「何事だ?」
部屋に憲兵が駆けつけてくる。
憲兵は佇む男装の鮎子とドレスを破かれ倒れている椿の姿を見て確信する。
「助けて下さい。憲兵さん。」
突然椿が泣き出す。
「この人が私を無理矢理。」
「待て、僕は何もしていない。」
鮎子は咄嗟に容疑を否認する。
「話は署で聞く。来い。」
憲兵は2人がかりで鮎子を取り押さえる。
「一斗さん?!」
騒ぎを聞き付けて春子とりょうがやってきた。
「春子さん。」
「待って下さい。何かの間違いです!!」
春子は必死に憲兵に訴えるが虚しく鮎子は連行されてしまった。
その傍らでりょうが椿を抱き抱え連れ出そうとしている。
その時
「やっぱりそうだったのね。」
春子は見てしまった。椿の右肩の火傷の後を。
婚約披露のパーティーに来る前、彼女は鮎子と
一緒にマダムリーズの店に立ち寄った。
その時お店で働くお咲から教えてもらった。
「偽物の鮎子さんには右肩に火傷の後があります。そうだとしたら彼女の正体は私と浅草の旅館で働いていた椿さんです。」
「椿さん、貴女中村椿さんよね?浅草の旅館でお咲ちゃんと働いていた。」
「春子さん、人違いでしょう。鮎子は今お話ができる状態ではありません。申し訳ありませんがこれで失礼致します。」
椿はりょうにジャケットをかけられ車へと乗り込む。帰宅すると両親や使用人達は椿の姿を見て唖然とする。
「鮎子、どうしたんだ?」
「お嬢様、その姿一体?!」
椿は黙って自室に籠る。
部屋にはいるとドレスを脱ぎ捨て浴衣に着替える。
「鮎子さん、入りますよ。」
ノックと共に入ってきたのはりょうだった。
「鮎子さん、大丈夫ですか?」
「何がかしら?」
「何がって今夜春子さんの義理のお兄さんに。」
「あら、貴方何も分かってないのね。」
りょうはようやく気づく。先ほどの暴行は椿の芝居だったことに。
「あの人は男ではないわ。本物の西宮鮎子よ。」
「ってことは?」
「そう、だからわたくしが始末したわ。マダムリーズのドレスは破いてしまったけど公爵夫人にもなればまた買えるわ。本物の鮎子は今頃牢屋の中よ。邪魔者には消えてもらわないと。わたくし、いえわたくし達の野望のために。ふふふ」
椿はりょうに満面の笑みを見せる。まるで自分が勝ち誇ったかのように。
一方鮎子は警察署の独房で夜を明かした。
「西宮鮎子。朝食だ。」
翌朝看守が独房に朝食を運んでくる。鮎子が今までに口にしていた物に比べ質素な料理が出されらる。
「おい、僕をどうするつもりだ?ここから出せ!!」
「お前は令嬢を暴行した容疑がかかっているんだ。」
「僕は女だ!!」
そう言って鮎子はブラウスのボタンを外し、胸元を見せる。
「あいつは僕に成り済まして西宮家に居座ろうとしてるんだ。」
「だけど暴行は事実だろう。」
「僕はあいつに食められたんだ!!」
「悪いがそういうことは取り調べで検察に言ってくれ。」
看守が去ろうとした時。
「失礼致します。」
別の看守がやってくる。
彼らは耳元で何やら話している。
「そうか。」
看守の1人が独房の扉を開ける。




