かりそめの社交界
「いらっしゃいませ。」
夕方マダムリーズの店に訪問者があった。
「鮎子様に春子様お待ちしておりましたわ。」
鮎子にエスコートされやってきたのは春子だ。
春子は今日は黄色のわっかのドレスを着ている。これから結婚式に行くのだ。
二人は女学校の同級生だかこうして二人でマダムの店に来るのはいつ以来だろうか。
「マダム、注文した僕の服はできているか?」
「はい、勿論でございます。サリー、お咲ちゃん。」
リーズに呼ばれると2人は鮎子が注文した服を持って店頭にやってくる。
黒の燕尾服だ。鮎子は試着室を借りて着替える。
「マダム、本当に助かった。いつもありがとう。」
鮎子の男物の服はリーズの特注だ。高島屋など百貨店の紳士服だとサイズが合わない。
「春子様、やはりあの娘は偽物だったのですね。」
リーズが呟く。あの娘とは婚約式のドレスを先日買いに来た令嬢だ。
「春子様」
お咲が春子の耳元で何か呟く。
「分かったわ。お咲ちゃんありがとう。」
その時鮎子が試着室から現れる。黒の燕尾服がぴったり身体にはまっている。
「さあ、支度はできた。行こう。」
鮎子は春子に手を差し出す。
その頃婚約式の会場となるホテルでは。
姿見の前で微笑む椿の姿があった。リーズの店で購入したブルーのドレスを着て。
「ごきげんよう。プリンセス鮎子。なんてうふふ。」
椿はこんなにレースが分段に付けられたドレスは生まれて初めてだ。
「鮎子、入るぞ。」
ノックと共にりょうが入ってくる。白のタキシード姿だ。
「会場にはお客様が集まっている。僕達も行こう。」
「ええ。」
椿はりょうの手を取る。
(わくわくするわ。婚約披露の舞踏会なんて。これでわたくしは公爵令嬢、いえ公爵夫人。貧しい奉公人の椿なんてどこにもいないわ。)
会場には多数のお客様が招かれていた。華族だけでない、政府の要人、活動写真のすたあ、実業家、宮家の方々まで出席している。
出席者の視線が椿とりょうに集まる。
(そうよ。これよこれ。わたくしが欲しかったたもの。それにしても鮎子って令嬢は馬鹿よね。こんなきらびやかな生活を捨ててたかが使用人、それも女中と駆け落ちだなんて。)
少女小説の影響でも受けた。そう思って心の中でほくそ笑んでいた。
椿はりょうと共に挨拶に来るお客様の相手をしていた。
中にはロシアからやってきたお客様もいた。
「鮎子様、そちらのドレスよくお似合いですわ。」
「ありがとうございます。こちらは贔屓のマダムリーズの店で特注しましたの。リリカさんもピンクのドレス可愛らしくてまるでモスクワ宮殿から入らしたプリンセスかと思いましたわ。」
「まあ、鮎子さんたら。わたくし以前少しだけマダムリーズのお店を手伝ってましたのよ。」
リリカはロシアから来た亡命貴族の令嬢。珠家家と付き合うのある公爵家に嫁いだ。
椿はこの日のために西宮家や珠家家と縁のある者の顔、名前、経歴、趣味など全て覚えてきた。
これから長い付き合いになるのだから。
椿は会場を見渡すと春子の姿が目にとまる。
「わたくし失礼致しますわ。女学校時代の級友がいらしてますの。」
椿はリリカやりょうに断りを入れ、春子に近づく。傍らには燕尾服姿の男性もいた。
ロシアから来たリリカを登場させて見ました。
次回はどうなることか。急展開します。




