屋根裏のお嬢様
玲香は応接間を後にする。ちょうど廊下でメイド頭の園とすれ違う。園は中年の女性で一番長くこのお屋敷に勤めている。
「玲香」
玲香は呼び止められる。
「はい。」
「あんたにお使いに行ってきてほしい。」
園は玲香にメモを渡す。
「おりさ!!」
1人の麻の着物を着た少女が現れた。彼女がおりさだ。
「あんた達二人で買い出しに行ってきておくれ。」
「はい園さん。」
玲香とおりさは買い出しを頼まれると羽織物をとりに屋根裏部屋に向かう。2人は屋根裏にそれぞれ個室を与えられてる。
玲香は壁にかかっているドレスを見上げた。
「お嬢様」
おりさが玲香の部屋へとやってくる。
「おりさ、わたくしのことは玲香で構わないわ。」
「いえ、私にとってお嬢様はお嬢様です。」
おりさの言う通り玲香はお嬢様だ、いえお嬢様であった。以前は横浜の洋館に家族と住んでいた。貿易商を営む父に明るくて華やかな母。そして優しい使用人達。おりさも使用人の1人だ。おりさは玲香より1つ年下、玲香の世話係を任されていた。
「おりさ、見て。」
玲香はくまのぬいぐるみをおりさに見せる。
「まあ、可愛いくまちゃんですね。」
「お父様が送ってきて下さったのよ。」
玲香の父は貿易の仕事でヨーロッパ諸国に行くことが多い。この度に異国のドレスや宝石、絵本にぬいぐるみと何でも買ってきてくれた。
くまのぬいぐるみはイギリスで購入したそうだ。
「これ、おりさへって。」
優しい父は母や玲香だけでなく使用人にも送り物をくれる。
「こんな高価な物受け取れません。そしたらお嬢様の分が」
「いいえ、わたくしのはこちらが。」
そう言って玲香はドレスを取り出す。玲香は今年16才。社交界にデビューすることになっている。初めて舞踏会へと足へ踏み入れる少女達はデビュタントと呼ばれ白いドレスを着て踊るのだ。
玲香の父が送ってきたのは白地にリボンやフリルのついた可愛らしいドレスだ。
「あの、お嬢様」
おりさはドレスの裾に目をやる。裾のフリルが取りかかっていた。
「まあ、大変。きっと船員の誰かが輸送中にどこかへ引っ掛けてしまったのだわ。」
「お嬢様、宜しければ私が直しましょうか?」
おりさは裁縫が得意で玲香のワンピースやブラウスのボタンやリボンもつけ直してくれる。
「ええ、お願いするわ。ありがとう。」
翌日おりさはドレスを持って玲香の部屋にやってくる。
「お嬢様、ドレスの修復できました。」
玲香はおりさが直してくれたドレスを広げる。
「素敵だわ。おりさ、前よりもこっちのが可愛わ。」
おりさはフリルを修復しただけでなく背中にリボンまでつけてくれたのだ。玲香はさっそく着てみる。
「お嬢様素敵です。」
「ありがとう。」
だけど次の瞬間玲香の顔から笑顔が消えた。
「どうされましたか?お嬢様」
玲香は舞踏会に対して期待と同時に不安も抱いていた。もしも王子様にダンスに誘われなかったらどうしよう?1人だけ壁の花になってしまわないかなどと。
「お嬢様はお綺麗ですから大丈夫ですよ。」
おりさは部屋にある畜音機でクラシックをかける。そして玲香に手を差し出す。
「お嬢様、踊って頂けますか?」
玲香は一瞬きょとんとする。
「王子様に誘われたときの練習ですよ。」
「ウィ」
玲香はおりさの手を取る。2人は見つめ合って踊り出す。
玲香は自分の中にある不安を簡単に消し去ってくれるおりさをなくてはならない存在に思えた。一方おりさも自分に優しくしてくれる玲香が大好きだった。
2人はこんな日々が続けばいいと思っていた。




