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マダムリーズの帝都レフィーユコレクション  作者: 白百合三咲
大正カフェガール
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懐かしき国

 リリカと花は高島屋で買い物をすませると屋上のレストランでランチしていた。

「ねえ花さん、この後はどうなさるの?」

「そうね、活動写真でも見に行きません?」


 活動写真は民衆達の娯楽であった。日本だけでなく海外の作品も上映され特に西洋の貴族の青年と令嬢のラブロマンスは女学生達を虜にした。


「まあ、活動写真何を見ます?」

「戦争と平和なんてどうかしら?」


戦争と平和、それはトルストイの小説で有名でナポレオン統治時代のロシアの青年貴族アンドレと令嬢ナターシャの恋物語である。

舞踏会の1場面ではシャンデリアが輝く大広間でナターシャが白いドレスでダンスの相手を待っている。壁の花だ。

「お嬢さん、僕と踊って頂けますか?」

軍服姿のアンドレに誘われる。ナターシャはアンドレに手を引かれ、広間へと向かう。2人は手を取り見つめ合って踊り出す。


花にとってそれは少女歌劇の1場面を連想させた。

「お姉様」

花は隣のリリカを見る。リリカは涙を流していた。


(感動しているのかしら?)


上映が終わり2人は活動写真館を後にする。

「あのお姉様、映画どうでした?」

「素晴らしかったわ。でもそれと同時にロシアにいる親友を思い出してしまったわ。」


リリカはロシアから亡命してきたのだ。

「お姉様、祖国が恋しくなったのですか?」

「ええ、でもあの国には私の帰る場所はないわ。」


 リリカはロシアにいた頃はペテルブルグに住んでいた。ロマノフ王室とも縁があり宮殿の舞踏会にも出席していた。

王子様とのダンス、貴婦人達とのお茶会、親友トーニャとの旅行や恋の話。何一つ不満のない日々を送っていた。

 だか貴族達が裕福な暮らしをしている一方、農民や労働者といった人達の暮らしは貧しく、彼らは食べるパンもない、仕事もない、その日1日だけを生き抜くことすら過酷な物であった。

そしてある日学生を中心に各地でデモが行われた。

デモは日に日に勢いを増し暴動化していった。

そしてロマノフ一族は幽閉され処刑。貴族達の居場所は失われていった。

その代わり平民達が権限を持つようになり、「皆が平等」に暮らせる社会主義の国へと変わっていた。


「国の名はソビエト。きらびやかな宮殿や舞踏会と言った貴族達の文化は全て廃止されたわ。平等という名の元に。指導者に従っていれば仕事も来るし配給だってもらえる、だけど私が大好きだったロシアではないわ。」

「あの、トーニャさんはどうされたのですか?」

「今はまだ国に残っているわ。だけど屋敷は革命軍に差し押さえられたって聞いたわ。」


花は返す言葉を失っていた。

「ごめんなさいね。こんな話。だけどねいつかソビエトがまたロシアに戻ってたその時は祖国に帰ろうと思ってるわ。それでマダムみたいにブティックを開くの。貴族だけでなく平民の女の子だっておしゃれできるお店を。」


花はそれを聞いて安心した。


「お姉様、どこかで休みませんか?ずっとハイヒールで歩いていから私もうくたくたで。」

「そうね、じゃあ花さんの実家のお店行きましょう。銀座だからこの近くよね?」

「はい。」

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