思い出のリボン
桜子の実家は洋風建築のお屋敷だった。到着するとメイドが迎えてくれた。
「さあこっちよ。」
桜子は蘭子をかつて使っていた部屋に案内してくれた。この部屋は桜子が20才で帝劇に入団するまで使っていた部屋だ。
部屋は整理されていベッドと机それからクローゼットがあるくらいだ。クローゼットには何着かワンピースが入ってるくらいだ。
「ここで待ってて。」
蘭子は勧められた椅子に座り桜子を待つ。しばらくすると桜子は木箱を持ってきた。
中を開けると帽子や髪飾りがでてきた。
「これ皆お母様の形見なの。」
桜子の母は父と結婚する前オペラ歌手をしていた。日本に留まらずヨーロッパでも凱旋公演を行っていた。パリのオペラ座で歌っていたとき留学中の父と出会ったのだ。しかし桜子が10才のとき病でこの世を去ったのだ。
「お母様は現役時代アクセサリーや帽子は自分の手で作っていたわ。」
母はいつも口癖のように言っていた。
「私は歌を聞かせているのではない。歌を通して役を演じているのだと。」
歌を聞かせたいのだったらオーケストラの演奏をバックに飾りも何もない白のドレスで歌えばいい。だけど劇場に来るお客様の求めているのはそうではない。
歌によって語られる物語を楽しみに来ているのだ。
役を演じるには役のことを知らなくてはいけない。アクセサリーや髪飾りを作ることにより、自分が演じる役が生きた時代背景、置かれている立場、心情を学ぶことができる。衣装係に頼めば質の高い物を用意してくれる。本当に役になりきるためには必要なことだと話していたという。
桜子は再び蘭子から借りたドレスを着ると姿見の前で髪飾りやアクセサリー選びを始める。最初に緑の帽子を被ってみる。
「少し大人っぽいわ。」
ロザリーはまだ10代の少女なのだ。
「こちらはどうですか?」
蘭子が進めたのは白い羽のついたティアラだ。桜子は試着する。
「華やかだけど違うような気がするわ。これはどちらかというとマリーアントワネット様ね。」
「この青い花はどうかしら?」
再び試着する。
「これは地味だわ。それに淡いピンクには合わないわ。」
片っ端から母の形見の髪飾りを試着するが一向にいい物が見つからない。諦めかけていたその時だった。
「これはどうかしら?」
蘭子が見つけたのはパールピンク色のリボンだった。女学生がつける大きなリボンで見た目はありきたりな物であった。
「このリボンはお母様が初めて舞台に立ったときのものだわ。」
桜子の母がデビューしたのは14才のとき。当時合唱団に所属して、複数いるメイドの1人の役として出演することになったのだ。その時に共演するメイド達と色違いの物を作ったのだ。
桜子自身も母からもらったときその話を聞いた。スカートをつまんでよくメイドの物真似をしていた。「ようこそ、公爵夫人」などと言って。
それを見て母は笑って「いっぱい練習していつか舞台でも見せてね。」と言ってくれた。
「桜子さん、ロザリーって確か公爵夫人の侍女として舞踏会に行くのよね?」
「蘭子ちゃん、それよ。私このリボンでオーディション受けるわ。」
「私も賛成です。天国のお母様もきっと喜びますよ。」
桜子は鏡の前で母の形見のリボンを付ける。
そろそろ物語もクライマックス。
次回はご無沙汰だったあの娘が登場します。




