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マダムリーズの帝都レフィーユコレクション  作者: 白百合三咲
男装の令嬢
12/146

蘭の花のお嬢さん

 お蘭の目の前に広がったのは華やかな光景だった。

以前鮎子から聞いていたマダムリーズのお店だった。

「まるで舞踏会みたいだわ。」

「お嬢様何をお探しでしょうか?」

当たりを見回し興奮するお蘭にリーズが声をかける。

「お嬢様って私?」

「マダム」

鮎子が声をかける。

「この娘を飛びっきり美しいレディにしてほしい。」

「かしこまりましたわ。鮎子様」

リーズはお蘭を試着室に連れていく。

「ねえ春子さん、本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。マダムのドレスは一流よ。百貨店の婦人服だって敵わないわ。」

「そういうことじゃなくて」

試着室からはお蘭の声が聞こえてくる。お蘭はドレスを試着する度興奮している。

「この赤のドレスは薔薇の少女みたい、こっちはフリルがついててジゼルのよう。」

お蘭の口からは薔薇の少女やジゼルなどバレエ作品のヒロインの名前が飛び交う。鮎子が見せた少女雑誌で覚えたのだろう。

「僕はマダムにあの子を飛びっきり美しいレディにと頼んだ。ドレスではしゃぐようじゃレディには遠いな。」

「心配しなくて宜しいじゃなくって?あなただって男装したら立派な紳士になりきってるじゃない。去年できた宝塚少女歌劇の男役と同じくらいイカしているわ。」

「そうだな。僕は振り袖なんかよりもこの男物のスーツのがに合ってるようだ。」

二人が笑い合っているとお蘭が試着室から出てくる。淡いブルーに白の花柄のワンピースを着ている。胸元には白の丸襟がありスカートは何段ものフリルでできている。中にはパニエが入っているのかアンティークドールの衣装のようにふわっと広がっている。腰に黄色いリボンが巻いてあるのがモダンだ。

「お嬢様、どうぞこちらへ。」

お蘭はリーズに連れられ姿見の前に立つ。

「これがわたくし?」

そう呟くとスカートをつまんでお辞儀する。舞踏会のプリンセスのように。話し方も優雅になっている。

「マダム、宜しいのですか?こんな素敵なワンピース。」

「お嬢様、貴女はもう東北の田舎娘ではないわ。どこからどう見てもイギリスの令嬢よ。」

「イギリス?」

お蘭は疑問に思った。

鮎子がお蘭の元に歩みよる。

「お蘭、君にプレゼントだよ。」

それは白い蘭の花の指輪だった。鮎子はお蘭の左手の薬指にはめる。

「ありがとうございます。お嬢様。」

「お蘭、僕はもうお嬢様じゃないよ。僕のことは鮎子とでも呼んでくれ。それから君にはお蘭なんて名前相応しくない。だから今日から蘭子って呼ぶよ。」

蘭子。なんとも可愛いらしい名前だ。蘭子は生まれ変わったような気がした。自分はもう田舎娘でも、ましてや遊郭に売られた女郎でもない。令嬢蘭子。彼女にとっては嬉しい響きだ。

「蘭子、僕は君と二人で新たな生活を始めたい。イギリスで。一緒に来てくれるか?」

「はい、鮎子様とご一緒ならどこへでも。」

リーズ、サリー、春子の3人が証人になり鮎子と蘭子は婚約した。




 2週間後、鮎子は蘭子を連れて横浜の港にいた。イギリス行きの便に乗るためだった。

蘭子は待合室の外に出て風にあたっている。

「蘭子、寒くはないかい?風邪をひいてしまうよ。」

鮎子は蘭子のワンピースの上からショールをかける。

「ありがとう。あの鮎子様、」

「何?」

「わたくし鮎子様が女郎屋に助けに来てくださった時、以前見せてくださったオペラの王子様が迎えに来てくれたと思ったのです。」

蘭子は椿姫のパンフレットに載っていたアルフレードのことを言っている。

「お屋敷で振り袖を着ていた鮎子様素敵でした、ですがわたくしは今の鮎子様のが好きです。」

「ありがとう。僕もお蘭より蘭子のが好きだよ。」

蘭子の手を取り甲に口付ける。

その時イギリス行きの便の乗船開始時刻を告げるアナウンスが流れる。2人は手を握り合い船着き場へと向かった。

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