コンテストの優勝者
翌日の新聞でバイオリンのコンテスト優勝者の記事が一面を飾った。
アメリカからの帰国子女、帰ってきた赤い靴の女の子など書かれていた。記事の隣には赤いドレスに赤いハイヒールのメアリーの写真が掲載されていた。「優勝者岩崎きみさん 二十才」の文と一緒に。
メアリーがコンテスト会場に着いたときは最初の出場者が演奏していた。奇しくもメアリーのタキシードを着た十和子の番だった。十和子はオペラ「カルメン」の曲を難なく演奏している。一度も間違えることなく。
「あの方、少女歌劇の男役かと思いましたわ。」
「わたくしあの方のふあんになろうかしら?」
審査員のみならず出場者の少女達も十和子に魅了されている。
他の出場者も皆クラシックの曲やオペラの歌曲を演奏している。
「25番の方」
メアリーは自分の番号を呼ばれるとステージに向かう。会場には審査員の他に観客もいる。皆楽団のパトロンをしてる華族や富豪ばかりだ。
「25番 岩崎きみです。」
日本の名前を名乗るとバイオリンを手に持ち弾き出す。
メアリーが弾き出したのは流行歌「赤い靴」だった。
「この曲少女雑誌に載ってた歌じゃない。」
「私もラジオで聞いたわ。」
「コンテストで童謡演奏するなんて。」
出場者達は陰口を呟いている。審査員達も眠そうな顔をしてメアリーの演奏を聞いている。1人を除いては。
演奏が終わるとメアリーはお辞儀をしてステージを降りようとする。
「きみさんだったね。」
審査員の1人がメアリーに尋ねる。彼は楽団のバイオリン奏者だ。
「はい。」
「他の出場者は有名なクラシック曲を選曲したがなぜ今流行りの童謡を演奏したんだ?」
「曲のヒロインが私と境遇が似ていたからです。」
メアリーは自分の生い立ちを話す。日本人の子だけど4才でアメリカ人の養女になってメアリーという名前をもらったこと、父の仕事で日本に戻ってきた事、日本の母に自分の存在を気づいてもらいたかったこと。
「私は母の記憶がありません。きみという日本の名前だけが頼りです。昨日滞在先のホテルでラジオから流れてきたこの曲は自分そのものでした。私が今回コンテストに参加したのまだ見ぬ日本の存在を知らせたかったからです。」
きみの話に会場は静まりかえってきた。
「興味深いお話ありがとうございました。」
出場者全員の演奏が終わると全員がステージに集まる。優勝者が発表される。
「優勝者は」
出場者の少女達は各々息を飲む。ドレスの裾を握る者もいれば、神様にお祈りするもの、自分の優勝を信じて勝ち誇った笑みを浮かべる者もいた。
「1番紅城十和子さんです。」
皮肉にも十和子だった。十和子の勝因はタキシードだった。少女歌劇にも似た姿が審査員、特に女性から受けが良かったのだ。審査員長でもある楽団の指揮者も男装のバイオリニストとして十和子をデビューさせたいと言った。母親である紅城夫人も満面の笑みを浮かべている。
「十和子さん、今のお気持ちをお願いします。」
十和子はマイクを渡される。
「あの、わたくし優勝は辞退します。」
「辞退の理由はお聞きしてもいいですか?」
審査員長が再び尋ねる。
十和子の辞退の理由は勝因だった。
「わたくしがやりたいのは少女歌劇の男役になりたいのでも男装でもありません。自分のバイオリンの実力が認められない以上は優勝を受けることはできません。今よりもさらに磨きをかけ再びコンテストには出場します。その時は衣装ではなく実力で優勝してみせます。」
十和子の発言に会場に喝采が起きた。
優勝者は再び決め直されることになった。
翌日そのはの住む北海道の新聞にもコンテストの優勝者が掲載された。
「あなた、あなた。」
新聞を見て声をあげたのはそのはの母かよであった。
次回からかよの過去に入ります。




