灰かぶり姫
「メアリーちゃん」
「そのはちゃん」
そのは毎週教会の集まりが終わるとラベンダー畑へと向かう。メアリーに会えるからだ。毎週この時間をそのはは楽しみにしているのだ。
「そのはちゃん、今日は私の家に来ないか?」
「メアリーちゃんの家に?」
「ああ、渡したい物があるんだ。帰りは送っていくよ。」
そのははヒュエット家の馬車に乗ってメアリーの家に招待される。
「さあ、お手をどうぞ。」
家に着くとメアリーが先に馬車を降りそのはに手を差し出してくれる。
そのははメアリーの手を取って馬車を降りる。
メアリーの家は西洋建築のお屋敷でお手伝いさんがいる。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
黒いワンピースにフリルの白いエプロンを着けたお手伝いさんが列になってメアリーを迎えてくれる。
「お茶を私の部屋に2つ」
「畏まりました。」
メイドの1人に頼むとメアリーはそのはを自分の部屋まで案内する。
「さあ、お入り。」
メアリーは自分の部屋を持っている。洋室で机やベッドが置かれている。
「ねえ、この娘は?」
そのはは机の上の写真に目をやる。メアリーの家族写真だろう。ヒュエット夫妻とドレス姿の少女が写っている。黒髪で顔立ちからは日本人だ。年は今のそのはより少し年下であろう
「これは私だ。アメリカで暮らしていた頃のね。」
日本から越してきたばかりだから4才くらいだったという。
「この時はまだドレスだったんだ。」
写真に写ってるメアリーは今の姿から想像できない。
「驚いただろう。まだアメリカに来たばかりの頃でね。」
メアリーが今の様な姿になったのは15才の時。
「6才の時に見たオーケストラの演奏が忘れられなくてね。楽団の最前列で奏でるバイオリニストが女性と知った時は驚いたよ。」
アメリカの楽団では女性の奏者も男性と同じでタキシードを身に纏うのだ。
「それでそのような格好を?」
「そうだよ。動きやすいっていうのもあるけどね。」
「そうだ、メアリーちゃん、渡したい物って何?」
そのはは思い出した。
「そうだった。忘れるところだったね。」
メアリーはクローゼットを開けると中から赤い靴を取り出す。
「さあ、プリンセス。」
メアリーはそのはの右足に履かせる。
(灰かぶり姫みたい。)
灰かぶり姫は教会でシスターが読んでくれる絵本だ。貧しい娘灰かぶりがガラスの靴を届けてくれた王子様と結婚するのだ。
そのはも好きな話である。
「良かった。ぴったりだ。」
靴を履かせて微笑むメアリーをそのはは見つめていた。
「メアリーちゃん、灰かぶりに出てくる王子様みたい。」
そのは頬を赤く染めて答える。
「嬉しいこと言ってくれるね。良かった。喜んでもらえて。これは餞別。」




