借金の秘密
外には多数の憲兵が来ていた。
「ちょっと憲兵さん、何があったんだい?」
女将さんは憲兵の1人に訪ねる。
「この遊郭は今から一斉検挙する。違法な人身売買の疑いがあると密告があってな。」
応接間では女将さんと楼主が憲兵と何やら話しているようだ。
その間鮎子は月城の座敷に通される。
「月城さん、ごめんなさい。僕のために大事なお客様が一人いなくなってしまって。」
「いいんだよ。客なんて他にもいるし、あの男しつこかったしからむしろ感謝してるくらいだよ。それよりお蘭はどうするんだ?」
隣にいるお蘭を見る。
「お蘭、ごめんね。」
鮎子は優しくお蘭の髪を撫でる。
「お嬢様なら必ず助けに来てくれると信じてました。」
お蘭は緊張が溶けたのか泣き出してしまう。
そんなお蘭を鮎子は胸に抱き締める。
「あんた達はここにいちゃいけないよ。今夜皆が寝静まった頃裏口から逃げな。」
月城が口を開く。
「人身売買の噂はおそらく本当だよ。前にも妙なことがあったんだ。あんた達も危ないよ。」
以前月城には朝月という仲の良い遊女がいた。いい身請け先が決まったと言って郭を出た。身請け先とは老舗の旅館の主人であった。朝月が旅立つ日に連絡先を渡されたそこにあった住所を書いたが旅館の主人から直々に「朝月という女は知らない」という返事が返ってきただけだった。
数日後に満州から帰ってきた贔屓客から現地の娼館で朝月に似た女の子を見たという話を聞いた。
「あのこの遊郭ってとある公爵家の持ち物なんですよね?」
「そうだよ。ここは東山公爵家の物だよ。遊郭だけじゃなく会社もいくつか持ってるって話だよ。それがどうしたんだ?」
その東山公爵とは鮎子の父に投資の話を持ちかけた人物だ。
「失礼致します。」
禿が座敷を訪れる。
「女将さんから全員下に来るようにとのことです。」
月城はお蘭を連れて下へ行く。その間鮎子は月城の座敷で待たせてもらうことになった。
お蘭が月城に連れられて下へ行くと楼主や他の遊女や下働きの男達もいた。
楼主の口から聞かされたのは驚くべきことだった。東山公爵が詐欺及び人身売買で捕まったこと、そしてこの遊郭はそれによって店じまいすることなったのだ。
東山公爵は華族に投資話を持ちかけては、そのお金を自分の懐にいれ、会社の経営が良くないといかにも投資に失敗したかのように見せかけ女の子を自分が経営する遊郭で働かせていた。そして若い遊女達に身請け先を紹介すると言って見世に代金を支払い遊女を預かり高値で海外の娼館に売り飛ばしていたのだ。
見世の楼主と女将も人身売買に加担したとされて憲兵に連行されることになった。
鮎子は座敷に戻ってきたお蘭と月城からその話を聞かされることとなった。
「これ、女将さんから。」
月城が鮎子に渡したのは大金の入った封筒だった。
「女将さんがあんたに返しておいてくれと。これからどうするんだ?家に帰るのか?」
帰っても家に居場所はない。それにやりたくもない習い事をさせられるのも嫌だし、お蘭を売った両親も許せない。
「いえ、帰りません。僕が帰る場所はお蘭だけですから。それに昔よりも今の僕のが自分自身を好きになれそうですから。」
「じゃあ男として生きて行くんだね?だったらしっかり守ってやりなさいよ。お蘭のこと。」
月城は封筒を返すと部屋を出ようとする。
「待って下さい。」
お蘭が呼び止める。
「月城さんはどうするんですか?」
「私は昔の旦那の世話にでもなるよ。」
月城は荷物を持って部屋を出る。
鮎子とお蘭も後を追うように部屋を出た。
見世の前に一台の車が止まっていた。中から春子が出てきた。




