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輪廻のカサンドラ  作者: はじめアキラ
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<第五十九話・信じる者の幸福>

――一体どういうこと……!?何が起きているというの……!?


 アナスタシアは必死で思考を回していた。目の前で起きたことが信じられない。竜騎士のドラゴン召喚の魔法は、分霊とはいえ守護竜の力を借りて攻撃することを意味する。即ち、放たれる技は守護竜と同じ攻撃だ。竜騎士側の魔力や技術に影響される上、分霊である以上オリジナルの守護竜ほどの威力は出ないが――それでも通常の魔法より遥かに威力が高いことは疑いようがない。

 そう、本来ならば、人間に向けるなど論外の魔法なのだ。

 闇の守護竜の一撃、“闇の咆哮(ダーク・カノン)”は。複数の敵を、闇のエネルギーで一気に薙ぎ払う魔法である。喩え白魔法で防御したところでただで済む筈がない。ましてや、まだまだテリスの魔法技術は高くないのだ。英雄候補という名目で忘れられがちだが、彼とて旅立って一ヶ月の新米なのだから。それなのに――。


「ぐうっ……!」

「!リカルド!?」


 リカルドが苦しげに膝をつく、よく見ると、彼の身体にはあちこち火傷の後があった。主に下半身に集中して、である。まるで、下から焔で炙られでもしたかのように。


――……!焔ですって!?


 はっとしてアナスタシアはリカルドの周囲を見回した。よく見ると、いくつもの奇妙な破片が落ちており、同時に確かな火薬の臭いがしている。


――まさか……!


 ここで漸くアナスタシアは理解した。今のドラゴンの一撃を、カサンドラ達が一体どのようにして防いだのかということを。


――まず、白魔法をかけたのは間違いない。闇の魔法を一時的に弱める“Anti-Darkness”…そして、魔法防御力を高める“Barrier”…!


 しかし、先述したように、それだけで防ぎきれるほどドラゴンの召喚魔法の威力は甘いものではない。つまり、それ以外にも手を打った、ということだ。


――最前列に立ったのは、カサンドラとクライクスの二人。前衛職である彼らは、あとの二人と比べると防御力に優れている。そして、二人揃ってソウルウェポンの使い手であることもわかってる……!なら、その武器で敵の攻撃を最大限防ぐことも不可能じゃない……!


 ソウルウェポンの最大の強みは、その耐久性にある。彼らの武器は、通常の武器と比べて遥かに頑丈で、万が一折れることがあっても簡単に修復することができる。強い物理攻撃や魔法攻撃であっても、ソウルウェポンの武器をうまく使えれば防ぐことが可能なのは、既にリカルドが自ら行って証明したことだ。

 そして、最後の一手を打ったのが――最も仕事をしていないように見えた、ショーン・トレイ。


――さっき、クオリアがガーネット神に食い殺された時……!彼は駆け寄っていって、治療を試みた。そして、動揺して、ポーチの中身をみんなその場にブチ撒けてしまっていた……!!


『クオリアさん!クオリアさん!!駄目です、こんなところで死んじゃ駄目です、ねえっ!!』

『テリス!蘇生魔法を……!今なら、今ならまだ間に合うでしょう!?』


――あの時の行動は、完全にミスだったはず。でも、わたくしは見ていない……ブチまけた薬や道具を、彼がきちんと回収したところなど……!


 もし。冷静さを取り戻した彼が、落として転がっていった爆薬の類の場所を瞬時に把握したなら。

 その一部が、リカルドのすぐ足元にあることに気がついていたとしたら――!


――あの攻撃の直前に、新たな火薬を投げ込んでリカルドの足元の爆薬に誘爆させた……!?その爆発で、リカルドの攻撃のコントロールを狂わせたというの……!?嘘でしょ、気がついたからってとっさにそんなことができるものなの……!?


 有り得ない。確かに、竜騎士のドラゴンの召喚魔法は、守護竜の力を借りるとはいえドラゴンの力を操っているのは竜騎士側である。特に、魔法攻撃として行った場合そのコントロールは召喚主の技量や状況に大きく影響されるのは間違いない。

 では、さっきの攻防はショーンが矛先をズラし、テリスが魔法で守り、クライクスとカサンドラが物理で余波を防ぐという、全員の息があった三段構えの防御ゆえの結果だったとでもいうのか!?


――仲間を信じて……自分達の心をあわせて、タイミングを一致させたというの!?まだたった一ヶ月程度の付き合いなのに……たったそれだけの時間で、そこまでの絆を結んだというの、貴方達は!!


「アナスタシア様!」


 反応が遅れた。気がついた時、アナスタシアのすぐ目の前に、クライクスの黒い剣の一撃が迫っていた。すんでのところで飛び込んできたリカルドがそれを防ぐ。槍と剣がぶつかる、凄まじい金属音が響き渡った。


「“秘薬・毒雨”!!」


 クライクスが飛び退いた瞬間、アナスタシアとリカルドの頭上にボール大の球体が投げ込まれた。毒々しい紫色をしたそれは、二人の頭上で弾け飛び、中の劇薬を撒き散らすことになる。


「うぐっ……!」

「これは……!!」


 思わず顔を覆った。防御した腕に、ぬるりとした液体が降り注ぎ、それが酷い激痛を有む。言うまでもない。毒薬――それも、触れるだけで皮膚が爛れるような劇薬を思い切り投げ込まれたのである。それも、クライクスが距離を取った瞬間を狙って。


「テオタイガーの尾、ソッカ鳥の唾液、マアカキノコの粉などを合成したとっておきの毒薬です。まあ刺激が強すぎて、飲ませて使えるような薬じゃないんですけどね。あと、痛くて痺れるわりに命に別状はないので、そこはご安心ください」


 ショーンの声が、どこか遠くから聞こえる。焼けた腕や肩の痛みで、正直答えるどころではなかったが。――ああ、こんな時回復魔法が使えれば楽だったものを。残念ながらアナスタシアは完全に黒魔法に特化した術師である。白魔法は、殆ど使えないと言っても過言ではなかった。


「“夜明けの一閃(デイブレイク)”!!」

「リカルド!」


 そこに、雷を纏った剣の一撃が振ってくる。どうにか反射的にそれを防いだらしいリカルドだが――彼は失念していた。

 基本的に、魔法剣の場合は普通に防御してはいけないのである。何故なら、防御したところで剣を伝って魔法が届いてしまうことになりかねないからだ。そして、クライクスは魔法剣士。先ほどから、剣技ばかりで戦ってくる印象があったために、すっかり失念していたのであろう。

 魔法剣士の魔法剣は、こちらも魔力で防御して防ぐか、躱すしかない。だが、リカルドに躱す選択はなかったはずだ。なんせすぐ後ろには、仕えるべき女王が控えているのだから。


「くそっ……!」


 雷に痺れたリカルドが膝を着く。それでも攻撃してきたクライクスの腹を突こうと槍を突き出すあたりは軍人の鑑か。

 しかし、やぶれかぶれの攻撃は当たらない。そもそも、最初からクライクスはヒット&アウェイの構えだったのだろう。リカルドの槍は空振り、再び後退するクライクスである。そして。


「“秘薬・火雨”!!」


 今度は頭上から小さな火の球がいくつも振ってきた。爆発した火薬が火花を飛び散らせながら襲いかかってきている。まさか、とアナスタシア思った。まさかこれは――無限ループなのでは、と。


――クライクスが一撃斬りつけてヒット&アウェイで離れ、離れたところにショーンが後衛から毒薬や火薬を投げ込んでくる……!そしてその機動力は、どちらもテリスの白魔法で大幅に上昇している!!


 完全にやられていた。自分とリカルドがバラバラの位置に立っていれば問題はなかっただろう。が、リカルドの使命は女王であるアナスタシアを守ること。神を守ることも大切だが、彼にとって一番の優先事項はそちらであるはずである。だから、アナスタシアが攻撃されればすぐそちらの防御に入る。アナスタシアが完全に黒魔法の専門で、身体能力そのものがさほど高くなく、回避力も防御力も低いのだから尚更そうなるだろう。

 それを、完全に向こうには見切られていた。ドラゴンの魔法を破られ(竜騎士のドラゴン召喚は負担が大きいので、基本的に一戦闘で一回が限度なのである)動揺したせいで自分も彼も冷静さを欠いていた。いくら壁際に追いやられていたアナスタシアが危険に晒されているといっても、自分もまたガーネット神を守り儀式を成就させるために此処にいる存在。一から十までリカルドに守られてはいてはいけないし、この場合アナスタシアが自力で回避するべきだったはずだというのに。

 反射的にアナスタシアを助けに行ってしまったことで、完全に術中にハマった。リカルドがすぐ後ろでアナスタシアを庇いながら戦うのは一番の悪手である。何故なら、アナスタシアに攻撃が当たるのを恐れて回避行動に移れない。後ろに下がることもできない。

 そしてアナスタシアもアナスタシアで、大柄なリカルドがブラインドになってしまい、敵の姿が見えなくなってしまっている。この状態で魔法を打っても敵に当てられる確率はかなり低いだろう。もっと言えば、手元から直線的に飛ぶ魔法が全て使えない。敵に当てようとしたらまず、目の前に背を向けて立っているリカルドに当たってしまうからだ。


――身動きできない!そんなっ……!このまま、このまま攻撃を続けられたら、わたくし達は……!!


 リカルドはなんとか攻撃を防ぎ続けているが、それも体力が尽きるまでのことだろう。

 勿論攻撃側だって疲れてくる。このループは永久ではない。ショーンかクライクスのどちらかが疲弊すれれば勿論終わるだろう。――だが。彼らの目的を考えるのならそれで問題ないはずなのだ。

 何故なら、彼らの成したいことは――!


「何故……っ!何故、何故、何故!貴方がたはわかって下さらないのです!この世界を救う為には、ガーネット神の力が必要なのですよ!?ガーネット神の力を借りてわたくし達カナシダ王家が、民の争う心を消し去り、無用な個性を消し去り、一つの神以外への信仰を消し去り……そうでなければ、人々はまた個性に溺れ、自分のことばかりを考えて欲望に走るようになるのです!それは戦争の再来、大陸で起きた惨劇が再び起こることに他なりません!貴方がたは……一時の感情だけで、この世界のあるべき未来を奪おうとしているのですわっ!ガーネット王国を、世界を、貴方がたは戦火に叩き落とし、多くの人々を不幸にしたいというのですか!!」


 どうして、わかってくれないのだろう。

 クオリアが大切だったのもわかる。ガーネット神が起こした異変のせいで、苦しんだ人間達がいるのは悲しいことだ。それを目の前で見たら、それしか見えなくなるのも必然かもしれない。でも。

 戦争は――戦争以上の悲劇が、この世界の一体何処にあるというのだろう。自分達が人々の心を清らかに保つため、どれだけ苦労をしてきたか彼らはわかっていないのか。戦争というものがどれほど恐ろしく、宗教がどれほど人々の火種になり、優秀なリーダーが導かぬ世界がどれほど恐ろしいものであるのか――!!


「どうして、神がいなくなれば……人々は必ず戦争を起こすと決めつけられるのですか」


 カサンドラの、静かな声が響いた。


「私は何度も見て来た。戦争は確かに悲しい。宗教が違う結果争い、流れる血が多くあるのも事実。でも。……人の心は、無理矢理誰かに抑えつけられて、闘争心を奪われ、個性を奪うような真似をしなくても……貴方が思うような争いばかりが起こるわけじゃない。魔法なんかなくても、洗脳なんかなくても、平和に生きて笑っている人達なんて世界にはいくらでもいるんです。それぞれがそれぞれの個性を尊重しあい、争うことがあってもそれを教訓にして進化していけば……そう簡単に、血ばかりが流れるような事態にはならない。だって、綺麗事と言うかもしれないけれど、それでも……人は誰だって心の奥底では、戦争なんかない平和な世界を望んでいるのだから」


 信じる勇気を持ってください、女王陛下。

 カサンドラはそう告げて、そして。


「貴方が思っているよりずっと、人の心は強くて、美しい。邪な神の力になど頼らずとも、平和に限りなく近づくことはできると……誰も犠牲にしなくていい世界が作り上げられると、私はそう信じている!私はこの世界の、人間の、みんなの可能性を、信じる!!」


 彼女は風のように、走り抜けていった。動けないアナスタシアの横を、ガーネット神の方に向かって。


――ああ、ああ……!


 わからない。自分は、間違っていたというのだろうか。

 邪神に頼り、犠牲を強いて、その平和こそ真実だと思っていた自分は。神のいない、誰にも守られない世界を自分達で築いていくことの不安から、新しい可能性を信じることができなくなっていたと?

 それとも、神の加護がなければ。カナシダ王家は人望を失い、誰も自分などを王とは認めてくれなくなるかもしれないと、本当はそれが怖かっただけなのだろうか?


――だから、わたくし達は負けるというの……?貴女達に、本物の“英雄”に……!?


 答えはまだ、見えない。それでも確かなことがある。

 もうすぐ、全てに決着がつくのだろう。

 この世界にも、神にも――自分達の物語にも。

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