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輪廻のカサンドラ  作者: はじめアキラ
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<第五十八話・逆転の一手>

 相手が竜騎士であるとわかった時点で、ドラゴンを召喚してくるのは充分想定の範囲内だ。

 そして、カサンドラも一応、相手が召喚してくるであろうドラゴンの種類には見当がついていた。何故なら、現状既に分霊として機能できる守護竜には大きく限りがあるからである。つまり土の守護竜であるガイア・マスター・ドラゴンか。闇の守護竜であるダークネス・マスター・ドラゴンのいずれか。それ以外のドラゴンは全て、神の手ないし自分達の手で討伐されるか封印されてしまっているはずである。


――そうなるともう、ほぼほぼ消去法で……闇の守護竜の加護を受けていると判断して間違いない。土の守護竜でかぶっている可能性もなくはないけれど、神の思考を考えるなら……味方側にも、一匹ドラゴンを残しておくと考えるのが当然……!


 確かに、土の守護竜は自分達を導き、結果として神の益となる行動を行っている。ただ、ガーネット神もアナスタシアも、あの様子だと英雄候補のパーティが最終的に歯向かってくる可能性が高いことを充分読んでいた様子だった。鳥籠を発動しても、驚いた様子が殆どない。そして動揺する気配もなく即座に迎撃態勢を整えたということは、つまりそういうことだったのだろう。

 となると。自分達をここまで誘導してきたガイア・マスター・ドラゴンがカサンドラ達に絆され、土壇場で裏切ってくることも充分想定できるはず。分霊の意思は本霊の守護竜に繋がっている。万が一カサンドラとリカルドに同じ守護竜をつけてしまったら、リカルドの方が加護を薄められてしまい、まともに戦えなくなる危険性があるだろう。ガーネット神としても、護衛の弱体化は極めて面白くないはずである。なら、別の守護竜をつけておくのがベターな選択と言えた。


――予想通りだ。リカルドに加護を与えたのはダークネス・マスター・ドラゴン……!


 アナスタシアの風で吹き飛ばされ、ダメージを受けても、カサンドラはけして考えることをやめてはいなかった。長年の戦いで自分は学んでいる。どんな勝負でも絶対はない。最後まで諦めず、考えることをやめなかった者に勝利の女神が微笑む。その結果、“絶対に勝てない”と言われた戦いがひっくり返る様を、カサンドラは長い転生の中で幾度となく見て来たのだった。

 アナスタシアとリカルドの行動パターンは分析できた。

 彼らを二人共排除してガーネット神をタコ殴りにする展開が理想だが現実的ではない。何故なら、自分達はできることならアナスタシアとリカルドを殺したくないと思っているのに対し、向こうはこちらの皆殺しも辞さない覚悟で向かってきている。殺意の差で負ける相手を、殺さず行動不能に追い込むことは非常に難しい。

 ならば、彼らをどうにか振り切るか、どうにか仲間が引きつけて一人でもガーネット神の方に走り、神の中で一人戦っているであろうクオリアの攻撃とタイミングを合わせるしかないだろう。

 そしてその為の鍵が、リカルドが使ってくるであろう切り札の攻略。即ち、ドラゴン召喚の魔法をいかにして防ぐか、ということである。


――竜騎士の放つドラゴンの召喚魔法は、通常の魔法よりも基本的な威力が高い反面……一度の戦闘でまず一度しか打てないという弱点もある。また長い詠唱とタメを必要とするので隙も多い。……でも、一度打たれてしまえば全体攻撃。全員一度でやられかねない。なんせ、バリアを貫通しかねないほどの威力があるのだから……!


 つまり、彼らにとって切り札。ここぞという時に使ってくる、ということだ。

 裏を返せば、リカルドのドラゴン召喚を凌ぐことができれば、少くとも彼らに非常に大きな心理的ダメージを与えられると考えられる。隙をつくとしたらそこだろう。魔法を防ぎ、彼らの動揺を誘い、そこを一気に畳み掛ける。普通にちまちま戦闘されていては、その隙を見出すことが難しいなら尚更に。


――勿論、リカルドがドラゴン召喚を行ってこない可能性もある!あの男は堅実そうだ。召喚を行う必要がない、と判断したら使ってこないだろうな。なら!


 使わせる。ドラゴンの召喚を。

 その為にはドラゴン召喚なしで自分達を倒すことが難しい、と判断させる。あるいは煽って煽って、一気にカタをつけたいとアナスタシア、リカルドの両名に思わせることが重要だ。


――作戦の、第一段階は成功……!


「テリス、クライクス…ショーン。……作戦は、以上です。できますか」

「できますか、じゃねえだろ。やるしかねぇべ。でないと殺されるんだから」


 あえて、リカルドがドラゴンを召喚する口上の間動かなかった。風で吹き飛ばされ、身体を起こす振りをして全員に作戦を伝えた。ショーンが、予め“伏線”を張っていてくれたからこそ成り立つ作戦でもある。本当に、彼は機転がきいていて素晴らしい。


「よくこの短時間でそこまで思いつくもんだ。やっぱりお前はすげぇよ、カッシー」


 テリスがにっと笑っていう。


「乗ったぜ。こうなりゃ全員で攻略してやろうじゃねぇの。世界を救うための、本物の英雄に……俺達がなるんだ。すげえカッケーじゃんか」

「そうだな。生贄などではない……本物の、英雄だ」


 クライクスも笑みを浮かべる。


「勝負は一瞬。……信じるぞ、みんな!」


 そして、闇の守護竜が姿を現す。全員で演じるのだ――この召喚が予想外のものであったかのようなそぶりで。

 それでも、感情のまま正義感だけを通そうと叫ぶそぶりで。


「六体の守護竜が適わない神ですのよ。人間ごときが刃向かえると思う方が間違ってますわ。今なら間に合います。これが最後の警告……。わたくし達に協力して、共に神の下平和を守っていく気は、本当にないのかしら?チーム“ファイナルヘブン”」


 穏やかに、それでいて有無を言わさぬ口調で語りかけてくるアナスタシア。本当は無益な争いなどしたくないのだ、とでも言いたげな口ぶりだ。

 確かに彼女も彼女なりに、この国の平和を維持するため戦ってきたのかもしれない。神に従い続ければ、“異変”と“生贄”で一時的に人が死ぬだけで済む。それ以外の大多数の人間が幸せに暮らし続けることができる。それも、完全な間違いではないのだろう。

 しかし。


「それは、私に……私達にクオリアの命を諦めろと仰ってるのですか?」


 それは――自分がその“少数の犠牲”に入らないことを知っている人間の考え方だ。

 どんな英雄でも同じ。見ず知らずの大勢の赤の他人を救うため、自分と家族だけが死ねと言われたら。それを承服できる者が、一体どこにいるというのだろうか。

 そもそも、神を倒せば国の全てが滅ぶような口ぶりだが。本当にそうなのか。神の力で、人の心を操り続けなければ、本当に大きな争いが起きて世界は滅んでしまうというのか?


「無駄などではありませんわ。この経験は必ずや貴方がたの未来を強く導く糧となりましょう。守護竜を相手にしても勇敢に立ち向かい、クリスタルを手にして世界を救った貴方がたはとはや生きる伝説。そのための経験も、栄誉も、栄光も、けしてなかったことになどなりませんのよ……!」

「栄光なんてない!クオリアを犠牲にして、これからも邪神に好き勝手食われるばかりの世界で!生贄を捧げて機嫌を取るだけの世界で!どうしてのうのうと幸せに生きていくことができるでしょうか!私には出来ない……絶対に、出来ない!!」


 自分達は、確かに真の歴史を知らないのかもしれない。

 それでも、これだけは言える。アナスタシアは臆病だ。本当は、もっと多くの人を救えるやり方があるかもしれないのにそれを試そうともせず、仕方がないと目を瞑っている、臆病な人間だ。


「クオリアだけじゃない……貴女が望み、導く世界で、本当に救われることなんて何もありません!私達には意思がある。好きなものを信じ、自分のために戦いを選ぶのも私たちの意思……それを、誰かに当然のように奪われて、表向きだけの平和を与えられて満足するなんて私達には無理だ!何故なら平和な世界も、本当に幸せな国も…誰かに押し付けられるんじゃなく、私達が全員で、自分の努力で築き上げていくものだからです。違いますかっ!?」


 だってそうだろう。

 心を無理矢理捻じ曲げられなくても、人は人だ。

 戦争が起きないように政治で、法律で、それぞれの信念で。防いでいく事はいくらでも出来るはずである。

 だってカサンドラは見てきたのだから。そんな悪魔の力などなくても平和に、平穏に、幸福に生きてきた――数多くの、異世界の人々を。


「……ならば、仕方ありませんわね」


 アナスタシアは残念そうに――とても残念そうに、溜息をついた。これは仕方ないのだと、まるで自分に言い聞かせでもしているかのように。


「リカルド」

「御意に」


 アナスタシアが命じると、リカルドは頷いて――その手を高々と掲げた。

 自分達を、一撃必殺のドラゴンによる召喚魔法でまとめて吹き飛ばし、粉々に粉砕するために。


「さようなら。これで、トドメですわ」


 闇の守護竜が、がばりと口を開いてカサンドラ達の方向を向き、吼えた。さあ、此処からが、勝負。カサンドラは、クライクスと共に最前列に飛び出す。ショーンが後ろで道具を取り出し、テリスが素早く二つの白魔法を唱えて準備する。


――私達は、神様になんて祈らない……!


 カサンドラは真っ直ぐ敵を見据えて、ソウルウェポンを構えた。


――何故なら私達の未来は……私達自身の手で、掴み取るものだからだ!!


『“闇の咆哮(ダーク・カノン)”!!』


 ダークネス・マスター・ドラゴンの口から、凄まじい闇のエナジーが放たれた。刹那、大爆発が巻き起こり、鳥籠で守られている洞窟をビリビリと激しく揺らすことになる。

 凄まじい衝撃と、地震。爆風に跳ね上がった幾つもの小石が跳ねて、カサンドラの顔や手足に傷を作った。

 そう。


「……馬鹿な!!」


 それだけだ。

 少々爆風でかすり傷は負ったが――カサンドラも、クライクスも、当然後ろに下がっていたショーンとテリスも無事だった。


「有り得ない!闇の守護竜の魔法を直に受けて、殆ど無傷であるなどと……!!」


 リカルドが驚愕に声を上げる。彼は優秀な軍人ではあったのだろう。しかし、それでも弱点はある。使命と、それからアナスタシアを守るという事を優先しすぎるあまり、視野が大きく狭まっていたことである。

 少し周囲に目を向ければ、自分達が予め張った罠に気づくことも出来ただろうに。


「解説はしませんよ、アナスタシア女王」


 カサンドラは宣言する。

 自分たちの意思を、誇りを。


「かりそめの平和と犠牲に甘んじ、新たな可能性に目を向ける勇気もない貴女達では……私達の意思は、けして超えられはしない!!」


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