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輪廻のカサンドラ  作者: はじめアキラ
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<第四十四話・クオリアの選択>

 クライクスは、混乱した。

 航海者――それは、異世界を“オリジナルの肉体を維持したまま”自由に渡り歩くことができる者達の総称である。渡航者や、魔女や魔術師と呼ばれることもあるが意味は全て同じだ。世界の壁を破ることは容易ではないし、破れたところで世界と世界を渡るには“船”か“道”のどちらかが必要になってくる。そのどちらか、あるいは両方が使える者は極めて稀だ。

 そして、航海者は通常その身分を世界の者に明かすことはない。カサンドラ相手のように、その人物もまた特別であったり、あるいは協力を要請する場合はその限りではないのだが。


「……何故、お前がそれを知っているんだ、クオリア」


 動揺するのは当然だろう。自分は、航海者であるということをカサンドラとテリスにしか話していない。クオリアは何も知らない筈だったし、知る手段も無い筈だというのに。


「……先ほどの会議で話したことの続きになるが」


 そんなクライクスをよそに、クオリアは平然と話を続ける。


「私は意識を失った時、焔の守護竜と雷の守護竜……二体の竜からコンタクトを受けた。竜騎士達のうち、この二種のドラゴンの加護を受けていたはずの者が召喚魔法を使えなくなった原因は、この二体の竜が倒されて封印されたせいだった。それを行ったのは……ガーネット神。二体のドラゴンはガーネット神に歯向かったせいで封じられるに至った。……と、ここまではお前達全員に話したな」

「ああ、そうだが」

「あの時、話さなかったことと、嘘をついたことがある。私はミーティングで“どうして二体のドラゴンが神に歯向かったかは聞かなかった”と言ったが、それは嘘だ。恐らくあの二体が私の意識に干渉してきたのも……私が薄々、この世界の真実に気がつきつつあったからなんだろうな」

「!」


 目を見開くクライクス。自分もあまり人のことを言えたクチではないが――クオリアは、非常に嘘をつくのが下手な人種だ。表情豊かな方ではないし、悲しみや苦しみ、怒りといった感情はそもそも表に出にくいのだろうが――そうでなくても彼は根が正直者すぎるのである。言わなくてもいい本当のことをついつい口にしてしまうこともあり、それで“空気が読めない”と評されることもあるのがクオリアだった。短い付き合いだが、クライクスもなんとなくわかってきたことである。

 そのクオリアが、自制して“嘘をついた”。それが何を意味するのかわからないほど、馬鹿ではないつもりだ。


「風の守護竜の配下……ウインド・スパイダー・ドラゴンと遭遇する直前、私達はモンスター数匹と戦闘した。状況から考えて、スパイダー・ドラゴンがけしかけてきたのは間違いない。つまり……守護竜の配下以下のモンスター、あるいはドラゴン種は、他のモンスターを操るか……もしくは、指示を出すことのできる立場であるということだ。そこで思った。もしや、これは……クンツァイトの洞窟にいたモンスターだけではない。この島の“全てのモンスターに関して同じことが言える”のだとしたら、どうだ?」


 それは、薄々クライクスも考えていながら、しかし信じたくないと思っていた可能性だった。

 守護竜は、人間を襲わない。その配下も、動くとしたら守護竜の聖域を侵すような愚行を人間が犯した場合のみである。だが、それ以外のモンスター達は違う。町や、輸送のための車馬車や船が紋章の力で守られているのは、そうしなければモンスター達の襲撃に合うからである。

 モンスターは、人間を襲い、喰らう。多くのものが凶暴であり、人間にとっての脅威である。それが自分達にとっての共通認識だったはずだ。けれど。


「……モンスターは、何者かに命じられて人間を襲い続けていたと。そう言いたいわけか?」


 クライクスの言葉に、そうだ、とクオリアは頷く。


「そして、そう考えると幾つもの事象に辻褄が合うと思わないか。私達は知ったはずだ。紋章の結界と呼ばれていたものが、ただの印に過ぎなかったことを。それぞれの市町村が莫大な金で国に依頼した“紋章の力を埋め込む補強工事”そのものが完全に意味のないものであったことを。あれは結界などではない。ただの印だった。では、どうして紋章で守られている馬車や町がモンスターに襲われないのか?」

「文字通り……印としてならば機能していたから……か?」

「そうだ。“紋章を掲げたものは襲うな”とモンスター達が何者からから命じられていたから。そう考えると筋が通る。何の結界も働いていない紋章を、何故モンスター達が律儀に避けて通ってきたのかということもな。そして……全てのモンスターにそんな命令が下せそうな存在は一つしかない。八体の強大な守護竜さえ支配下に置く存在、国の守護神、ガーネットだけだ」


 沈黙が、落ちる。

 クオリアの推理は非常に筋が通っている。守護竜の配下にもできたことが、神にできないはずがない。モンスター達は全て神の意思通り操られているか、もしくは忠実な下僕として機能している可能性。

 そして、意図的に“襲う人間と襲わない人間”を区別していた可能性。

 それは同時に、もう一つ恐ろしい可能性の示唆でもある。今でも、マカライイトタウンで起きた惨劇を除けば、多くの市町村で“紋章”は機能している。他の町が謎の襲撃を受けた、という件は、皆無ではないがほとんど聞かないと言っていい。つまり。

 神の意思は、モンスター達にとってまだまだ有効な状態である、ということだ。神の力が弱まっていて、その補強のためにクリスタルが必要である――自分達の旅は、そういう前提であったにも関わらず。


「もしかしたら。異変、なんてものが最初から無かったのかもしれない」


 クオリアは呻くように言った。


「全ては予定調和だった。私達の眼からは異常なことに思えただけで……神にとっては、当たり前のことが当たり前のように起きただけに過ぎなかったのかもしれない。マカライトタウンの氷と水の守護竜の襲撃……あれを見て、焔と雷の守護竜は神に反旗を翻したのだそうだ。……あの襲撃が、神の意思によって起こされたものだとそう考えたがゆえに」

「まさか……」

「まさかと思うが、実際氷と水の守護竜は正気を失っていた。守護竜二体を同時に洗脳するような真似ができるのは神くらいなもの。明確な証拠はなくとも、焔と雷の守護竜がそう判断するには充分な状況であったといえるだろう。それにより、彼らが絶対に勝てぬとされている“主”に牙を剥くことを選ぶのも、また」


 目眩がしそう、だった。

 分かる。話している内容は分かる。それでも――分からない。

 一体神は、何故そのような暴挙に出たのか。予定調和?つまり、氷と水の守護竜を操る必要があったということか?そして町を襲わせなければならない理由があったと?あんなにもたくさんの人が、そんな神の気紛れで殺されなければならなかったとでも?


「実際……風の守護竜の意思を奪い、暴走を招いたのは神であるとウインド・スパイダー・ドラゴンも証言していた。なら、水と氷の守護竜の身にも同じことが起きていてもおかしくなかろう。……そう考えると、カサンドラが安全確認できる土の守護竜以外はもはやどうなっているかもわからないところだな。光と闇の守護竜も既に神の手にかかっている可能性は、大いにあるだろう」


 クライクス、と。

 クオリアは静かに名前を呼んだ。


「ガイア・マスター・ドラゴンの背から落ちた時……私は私と、カサンドラの過去の光景を幻視した。そして思い出した。私が何処の誰であり、過去何者であったのかということを。記憶を継承できていなかっただけで、私もまた“転生者”であったということ。……焔と雷の守護竜は我々の正体を全て知っていたらしいな。彼らが我々をこの世界に招いたわけではないようだが……それでも教えてくれたよ。カサンドラのことも、クライクスのことも……そして、私の運命のことも」

「お前の運命って……」

「カサンドラから聞いたんだろう。私はもうじき死ぬ。それが確定された未来だと」


 何で、と思った。

 クライクスは信じられない気持ちでクオリアを見る。自分はもうすぐ死ぬ――なんて。そんなことを何故、平然と口にすることができるのか。


――何で、そんな覚悟ができる。


 クオリアがドラゴンから落下する前の光景は、自分達も見ていた。彼は子供のようにはしゃいでいた。冒険者として、これからも多くの世界を見たいのだと言っていた。未来を。生きて、幸せになる未来を、誰より望んでいたのではなかったのか、この青年は。

 生に未練がないはずがない。それなのに、どうして。


「クライクス、お前の読みは正しかった。私はけして、お前達の宿敵……災禍の魔女・アルルネシアと無関係ではない。私はこうなる前、一番最初の世界であの魔女に遭遇した。そこで拷問と陵辱の限りを尽くされて殺された。全ては……私の魂に記憶と力を溜め込み、神竜を創り出すに相応しい器へと育てるために。私が転生者にされたのはそのためだったんだ。悲劇に見舞われ、心身に傷を負い、絶望するたびに私の力は強くなっていく。転生し、そのたび私が惨たらしく死に続けることは全て魔女のシナリオ通りだった。……その私の傍に、必ずカサンドラがいることも、等しく」


 だから、と青年ははっきりと――告げた。


「私は死ぬ。それが魔女から受けた呪いであり、永遠に続く輪廻。定められた結末。……それでも私は、私の大切な者達の幸せまで諦めてやつるもりはない。死ぬとしても、魔女の定められた通りに死んでやるつもりはない。この馬鹿げた運命に必ず風穴を開けてやるる……その為の覚悟は既にある。だから……クライクス、協力してくれないか」


 何かを諦め、絶望した者の眼ではけしてなかった。本当は誰より生きたいと望んでいたはずの彼は。ただ死ぬだけでは済まない、恐ろしく苦痛に満ちた死を約束されているはずの彼は。

 それでも守りたいもののため、覚悟を決めてそこに立っていた。クライクスにはそれがわかった。――だから。


「お前の力が必要なんだ。終わらせなければならない。全ての悲しい事を……悪い夢を」


 一体何を、言うことができただろう。

 過去も、未来も、希望も、絶望も。全てを見据えてそこ立つ、美しいかの人に。

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