表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻のカサンドラ  作者: はじめアキラ
37/64

<第三十七話・劣等感を乗り越えて>

 戦闘において白魔導士が真っ先に考えるべきことは、いかに最初にかける魔法の選択を誤らないか、である。


『お前は魔力の値は高いのに無駄遣いが多い!それと、とっさにフリーズして判断が遅れるのは白魔導士としては致命的だぞ!』


 冒険者になることが決定し、旅立つまでの一ヶ月間。テリスは白魔導士コースの教師にみっちりとスキルを叩き込まれることになった。勿論それはほかのメンバーも同じなのだろうが、いかんせんテリスは中等部の学生だったわけで。きちんとしたジョブ訓練など全くしていなかったわけで。

 転生者であり、元々相応の戦闘能力を持っていたカサンドラとは違い、殆どゼロからの出発だったのである。そりゃもう、教師達も呆れ果てたことだろう。こんな奴を本当に今すぐ飛び級で卒業させて、ジョブ資格なんてものを与えてもいいものなのか、と。


『いいか?白魔導士はただの回復役じゃない。そして回復をするにしても、仲間が怪我をしてから動いたんじゃ遅い!蘇生魔法なんてものに頼るな。あれは条件が厳しいし、蘇生直後の仲間は動きが鈍る。代償で補助魔法で底上げしたステータスも解除されてしまう。よって、基本的に蘇生なしで乗り切ることを考えろ。いかに味方を倒れさせずに戦闘を継続できるか、それが最終的にパーティ全員の生存率を上げることになる……!仲間が一人倒れれば当然残るメンバーは庇いながら動く羽目になる上、敵の攻撃が少人数に集中しやすくなるのだからな……!』


――ほんと、センセイの言うことは正しいよなあ……!


 テリスが白魔導士を選んだのは、ほんの少し他のジョブより向いていたからで、ほんの少し他のジョブより就職率がいいからという、それだけのことだった。何か深い考えがあったわけじゃない。ここまでアタマを使わなければならないジョブだなんて正直全く知らず、教師達にシゴかれてからほんの少し後悔したのも事実ではあるのだ。

 それでも。


「“Anti-Wind-All”!!」


 杖を掲げて魔法を唱える。瞬間、テリスを含めパーティ全体に、一定時間風魔法を無効化するバリアが張られた。これで一定時間、一定以下の風魔法ならばダメージを受けることなく戦い続けることができる。


――俺に出来るかなんて、正直今でもわかんねーけど!白魔導士の俺は……いつだって仲間を一番に助けられるってことを、忘れちゃいけねーんだ!!


 自分は、癒しの魔法と補助の魔法しか使えない。

 でもそれは言い換えれば、自分だけが本格的な癒しと補助を行える、ということ。

 何を取っても一番になどなれなかった自分が。何処に行っても凡才で、結局最後までアカデミアの教師達から心配しかされなかった自分が。このパーティの中においては、絶対必要な癒し手として期待され、信頼されているのである。それがとれほど尊く、有り難く、重い責任であるのかを忘れてはならない。

 自分の判断ひとつで、みんなの命運が決まる。

 自分の判断ひとつで――みんなの未来を、切り開けるのだ。


「風魔法……まさか、風の守護竜が攻撃してきたんですかぁ!?」

「いや……そこまで大きな魔力ではない。ただ、全く無関係というわけではないだろうな……」


 おっかなびっくりのショーンにクオリアが言う。テリスも感じていた。完全に不意打ちを食らった形だが、それでも風の防御魔法がギリギリで間に合っている。風の守護竜相手ならそうはいかないだろうし、何よりあの水の守護竜や氷の守護竜と比べて、感じる魔力は間違いなく小さなものだ。

 洞窟は緩やかに左にカーブしつつ、あちこち細い横穴ができている。その向こうは舗装されておらず、紋章の加護もないということで一般の商人は進入禁止となっている道だった(その細い道の奥に貴重な鉱石があったりするので、冒険者が入ることは珍しくないのだが)。気配はその道の奥から近づいてくる。複数だ。


――やっぱり、紋章の加護は本当にデタラメ……なのか?そんなものなかったってのか?でなきゃ、いくら横道に潜んでるからって……モンスターが舗装道にいる俺達に攻撃してこれるはずがねえ……!


 やがて、淡い碧い色のランプに照らされた広い道に――ずるり、と横穴から這い出してきたモノがあった。

 緑色に、黒い斑模様に大きな頭を揺らすヘビ達が合計四匹。あれは確か、フロッグ・コブラ。ゆらゆらと動く大きな頭、その裂けた口からは巨大な牙が覗いている。クンツァイト洞窟に出現する、代表的なモンスターだ。此処にいることそのものはおかしくない――おかしくはないのだが。


「紋章の敷かれている道に普通に出てきましたね……」


 カサンドラの顔が険しくなる。


「やはり、紋章の加護というのは最初から存在しなかった……今まで紋章がある場所にモンスターが現れなかったのは、別の理由があるの考えるべきでしょうか」

「そうですね。でも今はこいつらを倒すのが先です。フロッグ・コブラ……少し厄介な敵ですよ。風魔法も使ってきますが、特に面倒なのはあの牙……猛毒があります。だからこそ、うまく盗めればいい薬が出来るんですけど……あぁ欲しいなあ」

「さすがブレねーなショーン。盗賊の鑑だわ」


 自分は凡人ですよ、と。事あるごとに言うショーン。テリスは知っている。彼が自分自身こそ、このチームで一番のお荷物だと考えていることを。自分が一番どんな戦いにおいても役に立っていないのだと感じていることを。


――バーカ。んなわけあるか。お前は強ぇよ。確かに俺もお前も凡人かもしれねーけど……それでも。俺は、お前のことだって尊敬してるんだぜ?


 だってそうだろう。

 ショーンは水の守護竜を相手に、クライクスと二人だけで時間を稼ぎきったのだ。クライクスが致命傷を負ってからは、クライクスを庇って実質一人でも戦い続けていた。誰がどうみても希望なんて無い、助けが来る保証もない絶望的な戦いであったというのに――彼は自分達が駆け付けてくるまで、けして諦めなかったのだ。

 そのおかげで、紙一重でクライクスも助かった。そんな強い奴を一体誰がどうして足手まといだなんて思うだろうか。


――負けねーよ、俺も。負けてたまるか。俺よりずっとちっこくて華奢なお前がこんだけ頑張ってるんだ。俺がお前より先に諦めたりしたら……カッコ悪いどころの騒ぎじゃねーわな!!


「“Protect-All”!守りは任せろ、ヘビどもを蹴散らしてやれ!!」


 まだ魔法の切り替えがうまくないテリスは、同時に何種類もの補助魔法はかけられない。一度風魔法防御を解除して、素早く全員への物理防御の魔法に切り替えた。瞬間、一番前にいた蛇が素早くクライクスに噛みつこうと飛びかかるが、すんでのところで物理防御バリアに弾かれる。


「“三連剣・闇”!」


 クライクスが闇を纏わせた剣で三連撃を見舞う。そのクライクスの動きをよく見ていたらしきショーンが、素早く自らのスキルを発動させていた。


「“盗賊の一手(スティール・スキル)”!」


 ヘビの一体が死ぬ刹那に、素早くその牙を抜いて掠め取っている。それは、良い薬になる素材を優先して盗みたかったのもあるのだろうが、それだけが理由ではないのだろう。

 ショーンは盗賊職だが、ちゃんと攻撃できる技も、攻撃に使えるような爆薬も常備している。自分のターンをその攻撃技に使わなかったのは、ひとえに“使う必要がないから”と判断したからに違いない。


「おっと、逃がさないぞ」


 思わぬ先制攻撃に驚いたらしい蛇達が、慌てて横穴に退避しようとするのを防いだのはクオリアだった。


「“Gaia-Break”!!」


 地面が盛り上がり、ヘビ達の進路を妨害しながら迫り来る。慌てて逃げようとする蛇のうち一匹が土に無惨に潰されて甲高い悲鳴を上げた。あ、蛇って鳴くの!?なんてことを考えてる場合ではない。


「思ったよりすばしっこいな……二匹逃したか」

「任せてください」


 それでも、慌てる仲間達ではない。カサンドラが顕現させた槍を洞窟の天井近くまで放り投げた。天井の高い通路だからこそできる必殺技である。


「“慈悲なき流星雨(デスペラード)”!!」


 放り投げる高さが高ければ高いほど威力の上がる技だ。ゆえに、屋内ではどうしても威力が落ちるが――今のカサンドラの力ならばこれで充分だったのだろう。

 分身しながら落下した槍が、逃げようとしていた二匹のフロッグ・コブラを滅多刺しにしていた。ざくざくざくざくと切り刻む音。広範囲に降り注ぐ槍は、多少の回避力があっても逃げ切れなかったことだろう。ヘビ達の素早さを考慮に入れての選択、見事なものである。


――すげぇよ……判断力も力量も、この数日だけで滅茶苦茶上がってやがる。


 テリスは感心した。それは彼らの個人の能力の高さが証明されただけではない。お互いの力量を正確に把握し、見事に連携してみせたのである。ショーンはクライクスがコブラを仕留めるのを完全に読んで、自分が攻撃技を放つことは不要と判断した。クオリアはクライクスの攻撃で驚いた蛇達が逃げるのを見越して退路を塞いだし、カサンドラはクオリアの技が完結するのを見る前に必殺技の構えを取っていた。

 この短期間で大きな試練を乗り越えてきたがゆえの、結束。自分達は確実に強くなり、確実に本物の仲間に近づきつつあるのだ。

 それは冒険者として考えるのならごくごく当然のことかもしれないが、それでもテリスは嬉しくてならなかった。辛いこと、納得できないこと、疑問も不安もまだまだ数多くあるが、このメンバーなら、どんな未来でも怖れず立ち向かっていけるのではないだろうか。

 少なくとも今の自分は、それを当たり前のように信じることができる。そのなんと幸福で、満ち足りたものであることか。


「モンスターは全部片付けたようだな、だが……」


 コブラ達は倒したものの、クライクスの顔は厳しいままだ。


「真打ちは此処から、らしいな。……隠れているのは誰だ。今のコブラ達を、俺達にけしかけたのは……お前か?」


 ずん、と。何か、重く巨大なものが這いずるような音が聞こえた。テリスは顔を強張らせる。強い。守護竜ほどではなくとも強い魔力を持つものが、自分達の進行方向の通路から姿を現そうとしている。


『……帰れ』


 そして。脳内に直接響く――ノイズ混じりの声が、聞こえてきたのだ。


『帰るがいい……人間ども。命惜しくば……これ以上先に進んではならぬ……』


 聞き覚えがある声だった。

 正確には、全く同じ声ではない。それでもこうして意思を伝えてくる存在を、此処にいる自分達は全員知っている。


「貴方は……!」


 カサンドラが声を上げたのは、通路の奥から姿を現した巨体を見たからだ。

 広い通路をその大きな体で塞ぐようにしてこちらに向かってきたのは、その巨躯に対してあまりにも小さな八本の脚と、八枚の羽根を持つ緑色の体のドラゴンだった。


『帰るがいい……我が主の、怒りに触れたくなくば……』


 それは、風の守護竜の配下と言うべき存在。

 ウインド・スパイダー・ドラゴンだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ