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輪廻のカサンドラ  作者: はじめアキラ
33/64

<第三十三話・一歩ずつ、前へ>

「正直、気持ちの整理がついたかというと……全然そんなことはねぇし。多分当面無理なんだろうなって、そう思うよ」


 マカライトタウンは、町全体の大凡半分が壊滅するという大損害を被った。東西から攻めてきた二体のドラゴン。東のアクア・マスター・ドラゴンの起こした大津波は思いの外広範囲に及んでいて、死傷者が出なかった範囲の家にも浸水していたのである。

 そして、西のアイス・マスター・ドラゴンは多くの死者を出した挙句、西から東へと進軍した。進軍中は住民を避難しながら行ったためその時巻き込まれた住人は少なかったが、建物の損害はその限りではない。巨大な竜が通った後は家も道も掘り返されており、しかも名残で凍りついたまま簡単には溶けない状況である。

 これに関しては、ジェイクはファイナルヘブンの面々から本気で謝罪を受けた。特にカサンドラはわかっていたこととはいえ想像以上の被害にショックを受けていたらしく、“私の作戦のせいですみませんでした”と何度も頭を下げられてしまったものである。

 それでも――少くともジェイクは、彼女達を責める気は全くなかった。あの状況。二体の竜を両方とも制圧する方法が他にあったかといえば、そんなことはなかったと思うのである。自分だったら、守護竜二体を倒す方法なんてきっと思いつくこともできなかっただろう。それどころか、カサンドラが来てくれなければ、あの場で絶望して打ちひしがれて、仲間の仇に一太刀を浴びせることもできないままヴェス達の後を追っていたに違いないのだ。


「何人死んじまったのか、正直それさえ見当ついてない状況だ。町の人口は精々数千人程度ってもんだが……この様子だと、三桁くらい死傷者が出ててもおかしくなさそうだしな。竜もあの通り氷漬けになったまま、そこから動かす手段が今のところなさそうだし。この後の対処はダイヤモンドシティの方に連絡入れて、憲兵の判断待ちってことになりそうだ」

「本当に、すまなかった。俺達のせいで……」

「だーかーら!お前らは悪くねえよ。被害は出たが、お前らがいなかったらこの程度で済んでないんだよ。むしろ俺達みんな殺されてた。お前らを責める奴らなんかいるもんか。むしろ英雄だ。胸張ってくれていいんだぜ」

「“英雄”……」


 ジェイクの前で、宿屋のベッドに寝てテリスの魔法治療を受けているクライクスが複雑そうな顔をする。

 ファイナルヘブンのパーティの中で、一番重傷だったのはクライクスだった。実際、彼を救出した時はもはやほぼ虫の息だったのだという。アクア・マスター・ドラゴンからクライクスが受けた傷は、内臓を複数損傷する完全な致命傷だったのだ。その状態でも、気力で戦い続けた彼はさすがというべきだろう。正直、魔法治療に長けた者がいなければまず間違いなく命を落としていたに違いないのである。

 テリスのおかげで一命を取り留め、なんとか起き上がれる程度に回復したようだが、それでも出来れば専門の医療機関に搬送した方がいいほどの傷だ。相当苦しいのだろうに、自分達のことばかり気遣う少年にジェイクはなんと言えばいいのかもわからなくなる。

 そう。こんな少年が、あんな少女が、ここまで頑張ってくれているのに――自分達がどうして、弱音など吐いていられるだろうか。


「復興には、相当時間がかかるんだよな……?」


 魔法をかけながらも、窓の外を見て苦い顔をするテリス。


「俺達に、何か出来ることはないか。ドラゴンを東西横断させちまった張本人、俺だし。いくら町を守るためだったとはいえ、みんなの生活を滅茶苦茶にしたことは事実だし。……やっぱり、やれることはやるべきだって思うんだよな。この通りクライクスだけはしばらく休ませて欲しいけど……」

「ダメだ」

「え」


 テリスの提案を、きっぱりとジェイクは断った。


「お前らさ。五十年前の冒険者達と……同じなんじゃないか?女王陛下に何らかの密命を受けて動いてる。しかも、それはこの世界の異変と無関係じゃない。……そうだろう?」


 テリスと、それからクライクスの眼が見開かれる。その表情だけで充分だった。自分だって、なんだかんだそれなりの期間冒険者をやっていて、しかもチームのリーダーだったのだ。観察力はそれなりにあるつもりである。

 カサンドラの言葉。彼らの状況。推察できる材料は、充分にある。


「今回の守護竜襲撃が……異変と無関係とは思えない。人が住む町は紋章で守られていて、本来モンスターが入ってくるなんて不可能なはずなんだ。それは守護竜だろうと例外じゃない。そもそも守護竜は、自分達の領域から出ることがまず無い。竜騎士につけるのはあくまで分身……分霊だから本体じゃないし、有事の際はまず配下のドラゴンを動かす。アイス・マスター・ドラゴンとアクア・マスター・ドラゴンにだって当然配下はいたはずだ。アイス・ベビー・ドラゴンとか、アクア・ガードナー・ドラゴンとかそのあたりな。俺が知ってるのは名前だけだけど。……それを動かさないで、守護竜本体が領域外に出て、しかも人を殺す目的で町を襲った。前代未聞どころの騒ぎじゃねえよ」


 しかも、守護竜は基本的に、自分達の聖域を侵した存在にしか罰は与えない。この町は、氷の守護竜・水の守護竜のどちらの領域からも遠く離れている。そもそも本来この町は地の守護竜の管轄区域のはず。縄張りでもない場所に彼らが出現して、しかも地の守護龍が動かないことそのものが異常だ。


「……もしこれが異変のせいなら……看過できない問題だ、そうだろ?」


 彼らの気持ちが、わからないわけではない。まだ幼い少年少女達の集団だ。目の前でボロボロに苦しんでいる町の住人達を――その原因を、仕方がなかったとはいえ自分達が作ったなら尚更――放置して旅立つことなどしたくはないのだろう。

 それは彼らが、強いながらも普通の心を持った、まともな人間であるからこそに他ならない。


「俺達を助けてくれるって気持ちは有り難く受け取っておく。でも……この町の復興は一日二日で終わるようなもんじゃない。紋章が効いてないかもしれないなら、モンスターだってまた新しく襲ってくるかもしれない。……お前らが助けてくれるとして、それはいつまでだ。どれだけ足止め食うと思ってやがる?……お前らがこの町に関わっている間に、また同じような悲劇が起こらない保証が何処にある」


 やるべきことを、間違えてはならないはずだ。

 彼らの役目の詳しいことは自分にはわからないけれど、それでも。


「だから……ちょっと休んだら、行け。お前達はこの世界を救う為に、やらなきゃならんことがあるんだろう。優先するべきはそっちのはずだ」


 不安はある。また、大きなモンスターなどが襲ってきたら。憲兵が対応する前に、氷の守護竜と水の守護竜の封印が解けるようなことがあったら。紛糾した人々が暴動を起こしたら。この状況でもし、大きな伝染病などが流行したら。

 町にとどまっている冒険者はもう自分一人。仲間達は、もういない。いつも頼りになったヴェスも、他の皆も――いない。万が一のことが起きた時、自分一人で町を守れる自信があるかといえば、正直そんなことはなかった。悲しみと恐怖で、本当は張り裂けそうである。そんな時、新人ながらも強靭な精神力と団結誇る彼らが力を貸してくれたらどんなにか。そう思うのは、紛れもない事実だ。でも。


――あの戦いを見て……はっきりわかった。俺は、お前らにはなれない。でも……俺は絶対、お前らの足枷にもならない。何ができるかわからなくても、俺は俺が出来ることを一個ずつしていくしかねえんだ。旅立った時と同じように、もう一回……始めから。


「あんな体たらく見せておいて、信用なんかないかもしれねーけどな」


 す、っとずっと降ろしていた腕を上げてみせる。自分達の話に反応を示すこともなく、泣きはらした顔でジェイクにしがみついている少女、リティ。祖父の死を間近で見て、明らかにショックを受けている彼女。その傷は当面癒えることはないだろう。そして、自分がキャベルの代わりになれるなどとはけして思っていない。

 それでも。


「任せてくれ、俺達に」


 少女を、町を、助けられるかもしれないのは、きっと自分だ。

 それだけでもきっと、生き残った価値はあったはずなのである。だから、ジェイクはテリス達の背中を押すのだ。

 この世界の名も無き人達に、少しでも明るい未来が見つかるようにと。




 ***




 マカライトタウンは、出入り口の一部を除き全てが高い外壁で覆われている町である。柵よりも壁で強固に固める選択をしている町は非常に多い。それはモンスター対策であり、少しでも人々に安心感を与える為でもあるらしかった。壁の工事は全て国王軍が行い、同時に紋章を埋め込む作業をするのだという。紋章はただ描くだけでは効果がなく、他にもいくつか工程を踏まなければならないのだそうだが、そのやり方や理屈は完全に非公開となっている。

 ガーネット王国の中枢が、ブラックボックス化している技術は少なくない。クオリアも、今までその状況をおかしいと思うことは殆ど無かった。技術が安定して供給され、その恩恵を受けて生活できるのならそれで問題ないと、多くの人々と同じように考えてしまっていたのである。なんせ、自分は技術者を目指していたわけでもない。その中身がわからずとも特に不便を感じたこともなかったのだ――そう、こうして冒険者として旅立つまでは。


「やはり……そうだ」


 クオリアはすっと、壁の紋章をなぞっていた。こちらを睨む竜と、八本の剣が交差した王家の紋章。これが、町へモンスターの侵入を防ぐ役割を果たしていると聞いていた。人々は皆そう信じていることだろう。クオリア自身も例外ではない。だから――この町に入った時に感じた微かな違和感も、気のせいだと思ってスルーしてしまっていたのである。

 しかし。自分は黒魔導士だ。魔力を探知する能力ならば物理職の者達よりも遥かに長けている。こうして紋章に触れて、直接気配を探ってしまえばすぐにわかる。


――紋章が破損している様子もない。壁の、他の紋章もそうだった。それなのにこれからは全く魔力の気配を感じ取ることができない……!


 守護竜が侵入したのは、結界がなんらかの形で機能しなくなったからではないか?と自分は疑った。もしも結界が破壊されたせいだとしたら、今後も町にはモンスターが次々と入ってくることになりかねない。そうなった時、冒険者が一人しか駐在していないこの町で――人々を守りきるのは至難の技になってくることだろう。

 ゆえに。技術も理屈もわからないが、それでも僅かばかり結界を修復できる見込みがあるのなら。そう考えて、クオリアは町の紋章を見てみることにしたのである。これでも黒魔導士ジョブコースでトップだったのだ。魔力の高さにだけは自信がある。少しでも手伝えればいいと思った――そう、それだけの考えだったのだが。


――違う、これは……これはただの、紋章だ。魔力の残り香もしない……つまり結界は破れたのではない。最初から、“町に結界なんてものは張られていなかった”のだ……!!


 これは、とんでもないことを知ってしまったのではないか。クオリアは動揺する。紋章には力がある。紋章を張った場所にモンスターは踏み込んでこない、攻撃してこない。それが自分たちの常識だった。だが。

 確かめなければならない。たまたまこの町の紋章だけが機能していなかったのか。それとも実は、“全ての町がそうであるのか”を。


――もしも後者であったなら……私達が信じてきたものは、全て崩壊することになるかもしれない……!!

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