ライバル店出現?
色恋管理のプロとしてイケメンインキュバスを紹介されるヒロ。面接もかねて話してみるのだが・…
ヒューリーは席を立って、一旦裏方に消えていった。
それからややあって戻ってくる。今度は一人のイケメンを連れて来た。冴え渡る青髪に、執事が着るようなタキシード姿だ。めっちゃサマになってる。男からしてもカッケエってなるやつだ。
彼は爽やかに微笑むと、胸に手を当てて丁寧に頭を下げた。
「お初にお目にかかります。インキュバスのジョシュアと申します」
「インキュバスか。なるほどな」
俺は感心して頷いた。
「元ホストってところかな」
「ご明察」
ヒューリーが紹介する。
「ジョシュアはあの優良ホストクラブ『グランド・イリュージョン』でナンバーワンだった、一流のホストだよ」
ほう、と俺がさらに感心すると、ジョシュアは優雅に肩を竦めてみせた。
「まあ、それも元ですけどね」
「なんで店をやめたか、聞いていいか」
過去は探らないのが礼儀だが、これはどうしても気になることだ。
それにジョシュアの雰囲気が、むしろ聞いてくれと言っているような気がした。彼からしても何か考えがあるのかもしれないな。
そしてジョシュアは頷き、改まって話し始めたんだ。
「僕も僕で、やがては自分の店を持ちたいと思っているんです。ホストとしての経験や資金は集まりましたので、もう充分かと。あと足りないのは、マネジメント側の経験ということです」
「おいおい、こっちも求めてるのはマネジメント側のやつだぜ」
それもジョシュアは充分な業界人じゃねえの。
れっきとしたマネジメントの経験こそないみたいだが、元ホストということは、客の女にキャバ嬢もたくさんいただろうしな。
彼に嬢の管理を任せるのは、ホストに自分の客の管理をさせるようなもんじゃねえのけ。
「こいつは渡りに船じゃねえかよ。都合よすぎて、気味悪いくらいだぜ」
天の采配っていうか、運命じみたものを感じるね。
けれどヒューリーは呆れて、
「バカね。この街ではこういうことが有り余ってるのよ。常にチャンスが転がっているから、それをどう引き合わせるかっていうことも重要な要素になる。うちのママは、とっても顔が広いんだから」
「需要と供給のマッチングね。さすがママだ」
「僕、ここで待機してて、まだ三日ですからね」
とインキュバスのジョシュアが言った。
「本当にこんなに早く引き合わせてくれるとは、驚きましたよ。しかも、相手があの『エデン』の店長とはね」
「おっ、うちの店を知ってるのか。少しは有名になったみたいだな。嬉しいかぎりだぜ」
「ご謙遜を。競争が激しいこの帝都プラザで、『エデン』は急速に売上を伸ばす超優良店ではないですか。僕なんかでお力になれるものか、はなはだ心許ないですよ」
「おいおい、嬉しいことばかり言ってくれるねえ」
俺はすぐさま上機嫌になったが、
「バーカ。ホストの口車に乗せられちゃってさ」
「はっ!?」
しまった。いつの間に。
「僕、男も行ける口なので」
ジョシュアがペロリと唇を舐め、妖しい微笑みを浮かべた。
俺はすっかりブルッちまったね。
こいつは本物の、根っからのインキュバスだ。
敵になると怖いもんだが、味方になってくれるというなら頼りがいがある。
「ジョシュア、って言ったよな。ここのスナックの紹介なら、身元も保証されたも同然だろう。なあ、どうだ? うちで、嬢の管理をやってもらえるか」
「はい、もちろんです。こちらこそ、ぜひお願いします」
ただ、とジョシュアは人差し指を上げた。
「僕はインキュバスです。兄妹種に当たるサキュバス族には誘惑は一切通じませんので、そこのところご承知ください」
「ああ、わかってる。サキュバス族の面倒は俺が引き続き見るよ。おまえは他の種族を見ててくれ。それだけでも充分助かる」
「かしこまりました」
慇懃に礼を取るジョシュア。
「とくに重点的に見るべき種族はありますか」
「とくに、エルフ族だな。あいつらとサキュバス族は仲が悪いから、うまいことエルフ族の矛先を逸らしてくれると助かる」
「なるほど。それは普遍的な問題と、その解決方法となりそうですね。いつか自分の店を持ったときにも、そのテクニックは使えそうだ」
「じゃあ、時間があるときに、うちの店に来てくれ。みんなに紹介しよう」
そして俺はジョシュアと乾杯し、改めて親交を深め合ったんだ。
やれやれ。いい男ってのは男から見ても惚れちまう。