ライバル店出現?
エレナの意外な過去を知ったヒロ。
異世界スナックのママに色恋管理のアドバイスを求める
「『エンゼル』のエレナ、って言えば、この帝都プラザじゃ知らないもののいない、超一流のキャバ嬢だったからね。王族とか、大貴族とか、日本の政治家とか、今売り出し中のIT系の社長とか、いろいろ凄い人から指名受けまくってたって話だからね。あたしなんかからしたら、雲の上の人だよ」
「マジかよ。あいつ、そんな凄かったんか。俺が初めてキャバに行ったときに、最初に俺に着いたのが、エレナだったぞ」
「そりゃ、宝くじの一等賞に当たったみたいなもんだね。だけど本当に凄いのは、その『エンゼル』が潰れたあと、その後継の店をあんたが切り盛りして、エレナが引退してでも手伝ってるってところだね。あんた、いったい、どんな魔法を使ったのさ」
「さあ? 俺は別に何もしてない」
「何もしてないってことは、ないんじゃないの。エレナほどの女は、その気になればなんだってできちゃうんだよ。そんな超ハイレベルな女なら、自分の店だって簡単に持てちゃうだろうし、あんたが店長やってる『エンゼル』の後継店だって、エレナの店になっててもおかしくないんだ。それで、どうしてそのエレナが、あんたみたいな冴えない男の下について付け回しなんかやってるわけ? 全然、筋が通ってないんだけどね」
「知らねえよ。エレナにはエレナの考えがあるんじゃねえのけ」
「『エンゼル』ってなんで潰れたんだろうね」
「さあな」
なんか大きな事情がありそうではあった。
俺が入れ込んでいたエルフからは、何か大変な事態に巻き込まれたといった感じがひしひしと伝わってきたが、結局のところ俺には何の事情も説明されなかったし、彼女が残していったハーフエルフのセリアに関しても、詳しいことは何もわからない。
だが、別に必死こいて探ろうとも思わない。
あのエルフの子も、知らないほうがいいという感じだったし、ヘタに藪蛇をつついて、嬢たちに迷惑をかけるわけにもいかない。
キャバクラってやつはただ煌びやかなだけの世界じゃないんだ。
他に居場所のない女の子たちが身を寄せ合ってる場合もある。
過去にはいろんな事情を抱えてるやつもきっと多い。
そういうのを根掘り葉掘り探るのは野暮ってもんだし、この世界では過去は聞かないのが礼儀みたいになっている。
「店長ってのは度量が必要なんだよ。『エンゼル』に何があったのかは知らねえけど、今あの店は『エデン』に生まれ変わってんだ。俺の店だ。俺が俺の信念に基づいて運営する。それだけのことだ」
「お、今きゅんと来ちゃった」
「俺に惚れるなよ。火傷するぜッ」
「はいはい、よしよーし」
「ママー」
俺はヒューリーに甘えに甘えた。
「それで、相談なんだが」
「何よ。あたしにできることって、限られてんだけどね」
「どこでもそうかもしれねえけど、うちの店でも、サキュバス族とエルフ族の対立が未だに続いてるんだ」
「あるあるね」
ヒューリー自身、エルフだ。
サキュバス族との対立は日常的なことだろう。
「まあ、うちでは互いにいいところも認め合う好敵手って感じではあるんだけどな」
「へえ、すごいじゃん」
ヒューリーは感心して、
「サキュバスとエルフって、悪くすると流血沙汰になっちゃうからね。光と闇の属性はそう簡単にはなれ合わないよ。それがせいぜいライバル関係ってだけで済んでるのは、ヒロにその手腕があるってことだと思うよ。やるじゃん」
「だけどな、さすがに俺も店の切り盛りが大変で、サキュバスとエルフにばかりかまけられるわけじゃないんだ。男手もたんないしな」
「そこで、相談?」
「うん。誰か、嬢のマネジメントができるやつを紹介してくれねえか」
ヒューリーは笑顔で、パチンと指を鳴らした。
「それなら、ちょっとした裏技を教えちゃおうかな」
「裏技?」
「ちょっと、呼んでくるね」
ヒューリーは席を立って、一旦裏方に消えていった。
色恋管理のスペシャリストとして紹介されたのは…なんと元ホストのインキュバスだった