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54. 交渉

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ありがとうございます。

「そうそう、お前さんたち、売りたいもんがあるんだろ?」

 ハンネスがノイとシオンに話しかける。

「アルベルトから聞いたんだ。俺もちったあ鑑定できるし、防具の材料になるような物なら買い取れるぞ。よかったら、見せてくれねえか」

「えーっと……」


 ノイは少し考え来んでしまった。とういうのも、リータに会ってから、当初想像していた普通の旅からどんどん遠ざかってしまっているような気がした。自分がドラゴンであるということはばれていないにしても、特殊な力が次々に露見していっており、村でちょっとした有名人にまでなってしまった。前世で生まれ育った村に行く、という平凡な目的を達成するために、そのことが凶と出るのか吉と出るのか、ノイは計りかねていたのだ。今持っている者も、通常の冒険者なら、なかなか手に入らない物がいくつかある。

 たが、当初からこれらはお金に替えたいと思っていたものだ。目的もなく大事に持っていても荷物がかさ張るだけだ。それに、見ず知らずの露天商に見せるよりも、ハンネスに見せる方が安全な気がした。

「はい、お願いします」

 そういうと、ノイは軽く頭を下げる。

「よし、そうこなくっちゃ」


 ハンネスの笑顔を見て、ノイはテーブルに向かった。テーブルに乗っていた荷物を一旦下ろし、テーブルの上を開ける。シオンも見様見真似で手伝い始めた。

「あの、結構珍しいものもあると思うんです」

「おう、それは楽しみだ。買い取れないほど高価なものがあれば、いい商人を紹介してやるよ」

 ハンネスはそういうと大きな声で笑った。ノイはその()()に曖昧に笑い、テーブルに荷物を広げ始めた。


 -----


 最終的に、テーブルには様々なものが並んだ。


 妖のキツネの毛皮 2匹分

 妖のイノシシの毛皮 4匹分

 グロロスカニーチャの毛皮 4匹分

 スターカーバイソンの革 少し

 妖玉(ようぎょく)青 6つ

 妖玉赤と青のマーブル 8つ

 妖玉黒 9つ

 妖の蜂の死骸(黒の妖玉入り) 1つ

 妖のハリネズミのトゲ(黄の妖玉付き) 1匹分たくさん

 スターカーバイソンの角(青の妖玉入り) 10本

 ボウザータイガーの角(赤の妖玉入り) 1本

 黒曜石の球 1つ


 その他にも細々としたものは色々あったが、売れそうなものはこれで全部だった。出発前に準備していたものと、途中で狩った生物の分も合わせて、結構な数になっていた。

 最初は出てくるものに反応していたハンネスも途中から黙り込み、全て出し終えたノイがみると、口をあんぐりと開けた状態で固まっていた。アルベルトは始終無言だったが、やはり驚いた顔をしている。

「これで、全部です」

 ノイがそういうと、ハンネスはハッとして口を閉じた。

「こりゃすげえ……」


 ハンネスはズボンのポケットから薄い手袋のようなものとルーペのついた眼鏡を取り出した。急いで手袋をはめた手で、スターカーバイソンの角を1つ手に取ると、眼鏡越しに覗き込みながら光を求めて窓に近づいた。

「……これは、お前さんたちが倒したのか?」

「オレは知らねー。それはノイが倒したやつだろ?」

「一人で?」

「はい」

「これだけの数全部?」

「えーっと……いくつかはその、途中で見つけて拾いました」


 ハンネスは戻ってきて、今度はボウザータイガーの角を手に取った。また窓際に行くと、しばらくルーペでのぞいてから、ほぉーと深く息を吐いた。

「これは?」

「それも知らねー」

「それは、たまたま手に入れたんです。その、黒い蜂みたいなやつに襲われた奴がいて、落ちてたんです」

「黒い蜂? ぅおっ、それか、死んでんだろうな?」

「はい、大丈夫です」


 そっとボウザータイガーの角をテーブルに戻すと、ハンネスは慎重に蜂の死骸を手に取った。

「結構重てぇな、アルベルト、なんだこりゃ」

「……初めて見た。」

「ほう、なら新種か?」

「私が知らないだけかもしれないが、その可能性は高い」

「こいつは妖生物だろ? 何色の妖玉だ?」

「えっと、その黒い妖玉です。他にも9匹いて、そいつらの死骸からとりました」

「うへぇ、毒かよ……まあ、確かに毒々しいわな」


 ハンネスはテーブルに戻り、蜂をテーブルに置くときに、はっとして椅子を見た。

「おい、角がこんだけあるってことは、もしかしてそのローブ、スターカーバイソンの革か?」

「はい」

「ちょ、ちょっとよく見せてくれ!」

 ハンネスは手前にあったローブを手に取ると、しげしげと舐めるように見始めた。


「これが……」

「それ、珍しいのか?」

 シオンが聞くと、ハンネスはローブから目をそらさずに答えた。

「珍しいなんてもんじゃねえ! これは、俺たち防具職人にとっては大金貨を積み上げたっていいくれえのの貴重なものだ」

 ハンネスは少し体から話して、今度は全体をまじまじと見始めた。


「こいつは森の奥にしかいねえ、ほとんど伝説上の生物みたいなやつなんだ。本当にごくたまに、ぼろっきれみたいな死骸が川に流れてくるのが見つかるくれえだ。それだけを目的に森に入るやつも多い。こいつの天敵はボウザータイガー、すげえ火の玉を放ってくるトラだ。だから、この革は驚くほど火に強え」

「そうなんですか」

 ノイは改めてローブを見てみた。ただ丈夫そうだという理由でローブや袋にしていたが、そんなにすごい革だとは知らなかった。

「こんなにきれいな状態のを見たのは、俺も初めてだ。いや、すげえ……見かけねえ革だから、何の革だろうとは思ってたんだよ。それにしても、このローブも不思議だな、継ぎ目や縫い目が一切ねえじゃねえか」

 ハンネスがいぶかしげな顔でノイを見る。ノイはぎくりと身体を硬直させる。

「ノイが作ったのか?」

「えっと、その……」


 確かに作ったのはノイだ。継ぎ目や縫い目がないのは魔法でつくったからだった。でも、これ以上魔法のことを話すと怪しまれてしまうんじゃないかと思い、言葉に詰まっていた。そんなノイを見て、ハンネスは笑いながら肩を叩く。

「すまねえ、変な詮索しちまったな。いやでも、これはめちゃくちゃ貴重な物だ。売れば相当な高値になるだろう。テーブルの上の端切れも、同じ革だろう? こんだけ綺麗なら、10cm×10cmで大体五十万エルはかたいだろう」

「そんなにするんですか!?」

 高価だろうとは思っていたが、それほどだとは思っていなかった。ノイはあまり丁寧に扱ってこなかったことに少し冷や汗をかきはじめる。シオンは価値があまり理解できていないのか、きょとんとしている。ハンネスはそれを見て笑った。


「ははは! 知らなかったとは言え、豪勢なやつらだな。その袋も、あとナハトにつけていた馬具も、全部スターカーバイソンだろう。大体……二頭分ってとこか? するってえと……五億エルくらいいくんじゃねえか?」

あまりの金額に、今度はノイは驚いた顔をする番だった。


「それにしても、どれも継ぎ目なしの、独特な製法で作られている。ノイが作ったのか」

「えっと、はい……」

「なかなかよくできているが、老婆心を出すと少々気になるところもあってな、どうだ、革で作ってるもの一式、俺にちいっといじらせてもらえねえか?」

「いいんですか?」

「スターカーバイソンの革をいじれるなんざ、こっちから拝み倒してもいいくれえだ。もちろん、代金なんてもらうつもりもねえからな」

 ハンネスはそういうと、ウキウキとローブを丁寧に椅子に掛け直した。


「小物はエルメルの方が得意だから、馬具や袋に関しては俺が話をつけてやるよ」

 そして、テーブルの上ものを丁寧に手に取りながら、話を続ける。

「カイツ・フォークス、ヒッズ・イーバ、グロロスカニーチャの毛皮は、よければ買い取るぞ。それぞれ一匹二十万エル、三十万エル、三万エルといったところか。スターカーバイソンの革は、んー、ざっと見、三百万エルってとこかな」


ハンネスは端切れの革を人撫でし、丁寧にテーブルに置く。

「この際、金が要るなら馬具や鞄なんかも売っちまうのも手だな。ここまでくると俺はちいと無理だが、アリストクラティに高額商品も扱う商人が店を構えている。もし売る気があるなら紹介してやるよ。まあ、それなりの金額になるだろうから、金貨もなかなか重たくなって持ち運びに不便かもしれん。すぐに要らねえなら、入用になるまでこのまま使っておく方がいいだろう」

「えっと、今は、そんなにたくさんはいらないです」

「じゃあ、やっぱりエルメルに頼むのがいいな。多分飛び上がって喜ぶぜ」

 ハンネスは妖のハリネズミの針の束を持つと、さらに続ける。


「こいつは、イーゲルの針か? 電気出すハリネズミみたいなやつだろ。珍しいな。一匹分とすると、五千本くらいか。こいつはあまり使い勝手がないが、希少価値がある。博物館を相手にする商人ならそれなりに高い値段で買い取ってくれるはずだ。一本百エルとしても、全部で五十万エルくらいで売れるだろ。さっき言ったアリストクラティの商人なら、大丈夫だと思うぜ。スターカーバイソンの角と、ボウザータイガーの角も、その商人がいいだろう」

 次に、妖玉を手に取る。


「青い妖玉は、でかいのが四つがグロロスカニーチャ、少し小さな二つがカイツ・フォークスのか。このへんのグロロスカニーチャはでかいからな。青い妖玉は一グラム二百エルだ。でかいやつが五百グラム、小さい奴が三百グラムくらいか。青赤のマーブル妖玉は一グラム三百エル。重さ的に……一個六万ってとこか。妖玉は防具には使わねえから、エルメルか商人に売ってくれ。交渉は俺がしてもいい。んで、っと……この黒い妖玉だが、そもそも珍しいし、ここまで黒い奴は初めて見る」

 確かに、よくみると吸い込まれそうな黒だ。表面はツルツルのはずなのに、光沢も全くない。じっと見ていると、持っているハンネスの手に深い穴が空いているようだ。


「これも、アリストクラティの商人がいいだろう。同じ重さの大金貨か、下手すりゃもっと高値で売れるぜ。で、この死骸もいい感じに売れるだろうが、まずユスティーナに見せてやると喜ぶんじゃねえか」

「明日も早いのだが」

 ハンネスが笑いながら言うと、アルベルトが苦い顔で口をはさんだ。

「まあまあ、いいじゃねえか。新種なんてめったにお目に掛かれるもんじゃねえぜ」

 ハンネスがアルベルトの肩をバシバシと叩くと、アルベルトがため息をついた。

「この光沢のある黒いやつは……お、これは妖玉じゃなく黒曜石か。どうりで馬鹿でかいと思った」

ハンネスが黒曜石をルーペで見ながら言う。

「黒曜石は防具や武器の飾りにも使うんだが、これだけきれいな球は見たことねえ。拾ったのか? まあ、それで付加価値がつくかもな。これも商人がいいだろう」


「わかりました、ありがとうございます。えっと、あなたに買い取ってもらえる分は、全部お願いします。ただ、妖玉は四つ必要で……その、教会に提出しないといけなくて」

「お、そうなのか、どれでもいいのか?」

 仮カードの件を知らないハンネスに少しためらいながら話すが、ハンネスは気にした様子もなく聞いてきた。ノイがアルベルトを見ると、アルベルトが口を開く。

「どれでも問題ない。だが、イーゲルの針は妖玉がついているようだが、特殊なのでやめた方がいいと思う」

「なら、小さい青い妖玉か、青赤のマーブル妖玉のどっちかだな。どうせ教会に提出したら、そのまま返してもらえねえし金にもなんねえんだろ。安い奴にしな。店で計ってやるよ。んじゃ、あとは売る方向でいいか?」

「はい、お願いします」

「よし、交渉成立だな。一旦店に行こう。金もすぐ準備する。ついでに荷物の整理もしとけ」


 ハンネスはそう言うと、親指を立ててそのまま入り口を親指で指す。ノイは返事をして、シオンと一緒に鞄に一旦テーブルの上のものを入れ始めた。さっきまで何も考えずに触っていたが、非常に高価な革だと聞いて、なんとなく触るのがおっかなびっくりになってしまう。だが、丁寧に荷物を入れながら、ヨーセフやハンネス、ユスティーナの申し出もあり、お金のことは当面何とかなりそうだと、少しほっとするのだった。

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